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医療経営コンサルティングの視点での支援システムの実力と課題
株式会社健康保険医療情報総合研究所
代表取締役社長 山口 治紀
 当研究所は、医療経済・医療保険制度に係る調査研究、システム開発・提供、コンサルティングおよびDPCベンチマーキング等の事業を行っている。筆者は製鉄業で生産管理部とシステム部での業務経験を経て、17年前に医業界に転職した。病院で管理部門全般を見るとともに、中期計画立案、コスト分析システム開発、新棟建設等を経験した後に、当研究所を設立して前述の事業に従っている。
 急性期入院医療の定額支払い(包括化)に関連して、筆者は平成10年にスタートした国立等10病院試行が始まる以前から、民間病院グループにおけるHCFAのDRG分類に基づいたベンチマーキングを支援する等、早い時期から診断群分類グルーパー(コーディングシステム)の開発、マスター整備、そして、データ収集方式の開発に傾注してきた。
 今回、タイトルにある内容をテーマに寄稿の依頼があったが、次の基本的な考え方に基づいて述べることとしたい。第一に、病院は経営の効率化に継続して取り組まなければならないが、その基本は病院の組織における自律性および職種スタッフ間・職制間の有機的連携であると考える。第二に、病院経営効率化の取り組みは、臨床現場での日常の診療プロセス管理(PDCA)から中長期的な経営体質強化に向けた診療領域見直しや新技術の導入、管理制度改革等のストラクチャー面での強化に至るまで多岐にわたり、コンサルティングおよびシステムが支援する対象は広範囲にわたる。
 これら二つの基本的な考え方を踏まえて、支援システムとしての現況を筆者なりに要約するとともに、当研究所のシステムを例にどこまでの支援が可能であるのかを具体的に示すこととする。また、支援システムの今後の課題についても、浅学の知恵の範囲で私見を述べる。
01  診療活動と病院経営の概観
 病院経営管理における諸活動の全体像を図1に示す。図の中央が医療提供活動である。医療活動は、診療活動(診療プロセス)とそれをサポートする間接業務によって遂行される。診療プロセス(工程)では、3要素である医師・看護師・医療技術者の人的資源、医薬材料等の物的資源、設備資源を投入して、患者個別の診療計画(ケアマップ)に則って、一連の診療行為(診療のアクティビティ)が提供される。右側は顧客を表し、患者のみならず、保険者・支払者、連携すべき病医院、取引先、製薬メーカー、そして社会であり、病院と関わりのある全てであり、ステークホルダーと呼んでもよい。社会には行政システム(医療保険制度)や新技術、医療に対する国民の価値観といった広範なものが含まれるといえる。いわば病院経営環境でもあり、この動向を踏まえて、図中左端の中長期的経営の方向性と戦略を立案する必要がある。急性期・慢性期の選択、新技術・新設備導入も含めた診療領域の検討等の医療内容の方向づけ、地域連携強化やIT化投資およびISO等のマネジメントシステム導入による組織改革等に基づいた利益計画、設備投資計画、人員計画、IT計画、資金計画等からなる中長期計画を策定する。計画に基づいた資金調達を図り、人・物・設備等の経営資源の調達と投資を実行する。
<病院経営管理での活動の全体像>
※クリックすると拡大図(PDF)が表示されます。
02  自律性と連携強化の支援
 診療プロセスは、診療技術(診療に係る総合技術と筆者は考える)を基本として、工程の3要素である人・物・設備を投入して、診療のアクティビティを患者に提供する。診療の結果(アウトカム)は、生産性、品質、コスト(利益)、納期タイミング、安全、意欲・満足度等が定常的に評価され、技術的課題・制度的課題を抽出して改善が実施されることが要求される。いわゆるPDCAの管理サイクルを職種横断的なチームが自律的に継続して回すことが、より良い医療をより安全により効率的に提供する礎となる。
 当研究所ではコンサルティングを行うに際して、例えば抗生剤の使用量の適否等、診療そのものについて直接的な指導をすることはPeer Reviewの領域であることから避けている。この部分こそ医療の品質とコストを左右する心臓部であり、医療チームによる自律的に継続したPDCAが定着する必要がある。診療分野のコンサルティングはPDCA定着ための管理制度構築、アウトカム評価システム構築支援と統計的品質管理手法、シックスシグマ等の管理ツール導入支援と教育、そしてISO導入支援等に傾注すべきと考える。
03  ITによる経営効率化支援の現状と課題
 図1に示すように、統合医療情報システムは、電子カルテ、オーダリング、診療共通部門システム、看護システム、物流管理システム等の医療における基幹システムおよび人事・給与、財務会計、購買等の管理部門システムで構成される。診療アクティビティと診療結果のデータをデータベース化して、自院における診療標準やパス検討におけるエビデンスとしての活用と、コスト評価への活用等を目的としたデータウェアハウスシステムの導入も始まっている。
 経営は図1に示すように広範な活動要素と相互の機能連携により構成されているが、経営効率化を進めるに当たっては、中長期計画から日常の診療プロセスにおける操業管理までの一貫性と統合性が求められている。経営戦略策定を支援するための支援システムは、ケアミックスへの移行や設備投資に伴う収支予測シミュレーションさえ多くの経営分析システムでは今後の課題といえよう。製造業等では、従来から目標値管理が導入されている。年度予算を立案する際にも全体の生産計画値と利益目標が設定されると、それと整合した各工場での生産計画値と利益計画値にブレークダウンされ、さらに、各製造工程での生産量と原価要素毎の計画値(目標値)に一貫性をもってブレークダウンされる。この考え方がバランストスコアカード(BSC)といえよう。医療向けにBSC運用支援システムが出されているが、原価分析と一体化されたシステムとはいえず、階層間が連携したビュウアー的システムの域を出ていないという感は否めない。
 また、診療活動そのものを支援するシステムでは、画像読影支援のような部分的な診断支援はあるものの、診断支援システムと診療支援システムは今後の課題といえる。電子カルテシステムはこれらの機能を核にした医師の思考プロセスを支援しつつ、入力データは構造化されるとともに、エビデンスデータベースとして蓄積されることによって、診療技術の向上、品質向上と安全向上に寄与するシステム開発が今後の課題といえよう。
<DPC分析システム(DPC別日別行為分析)>
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04  当研究所システムの概要 −経営効率化・標準化支援システムを提供
 当研究所は品質とコスト改善支援システムやDPCベンチマーキングのためのシステム開発と提供に端を発し、右記の統合医療情報システムの現状のもとで、IT化とともに蓄積される膨大なデータを活用して、経営の効率化を支援するシステムと、DPCを契機に標準化を進める活動を支援するシステム等を提供している。
 DPC分析システムは、DPC別に入院からの日別にどの診療行為が何人の患者に提供されているかを明細ベースで分析し、行為を選択するだけで日別行為マップを簡単に作成することができる(図2参照)。また、医師による診療行為のバラツキも簡単に分析することが可能である。グラフを見ながらアウトライヤー症例の探索やムダがあると推測される症例探索、および、その原因探索が容易にできるシステムである。DPCに関する月報統計も含めて、病院がDPCへの対応を適切に進めるための支援システムである。DPC分析システムでは、包括収入と出来高収入の比較に留め、あえてコスト分析機能は省略してある。ベンダーによっては粗い精度のコスト値や変動費部分コスト値と包括収入との比較ができるシステムもあるが、当研究所は真の問題解決と改善活動に結びつけるためには詳細な資源消費データと病院の実情に適合した処理にすべきだと考える。
 DPC包括評価は、病院が診療科別に留まらずDPC別にコスト管理を行うことを前提としているともいえる。病院経営分析システムはDPC調査の様式1で把握される範囲ではあるが、重症度情報等の要因と関連付けた診療のアウトカム分析を支援するとともに、医療活動に伴う詳細な投入資源情報に基づいたコスト分析を支援するシステムである。(図3参照)
 コスト(損益収支)分析は、病院全体から診療科別、手術室や画像部門等の診療共通部門別、そして、疾患別・DPC別(患者別)の分析ができる。同様の区分での損益分岐点分析もできる。分析精度は各診療アクティビティの把握単位と、それに付帯する医師・患者・時間・使用材料等の情報の把握精度に依存するが、本システムでは病院が把握できる実情に合わせて運用ができる。
 DPC包括評価への移行により、従来以上に地域医療機関との連携強化と広域化が必要となるが、本システムではそのニーズに対応する機能も有している。中長期の経営戦略との一貫性を支援するシステム機能として、計画に合わせて人的・設備的・ケースミックス等のデータの設定を変更することで、病院全体から診療科別、DPC別損益収支や損益分岐点の変化をシミュレーションすることも可能である。
<病院経営分析システム(OLAPによる課題と原因探索イメージ)>
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05  真の病院経営の効率化の促進を目指して
 病院経営の効率化という範囲で、病院および診療現場の立場から今後望まれると思われるシステム(機能)について概観した。本稿で紹介した2システムともに、院内エンドユーザーが利用する分析系のサブシステムは、データウェアハウスシステムの利用ツールであるOLAP(多次元分析)ツールで構築している。エンドユーザーが自らの診療内容とその結果について容易に分析できることを狙ったものである。
 病院の真の効率化は医師を始めとするスタッフが自律的にPDCAを回すことである。電子カルテの効用として、データの共有により、診療科や職種をまたがった連携強化が図れたことは、本誌の多くの寄稿でも繰り返し言われているところである。今後、統合医療情報システムは、診療活動を支援する機能を核としたシステム開発が進むとともに、データベースの共有と前述した一貫性をもったデータの高度利用を支援するシステム開発が進むことが期待される。診療現場でのPDCAを強化するためには、臨床データの構造化と評価のための指標の体系化も望まれるところである。
 一方、DPC調査でデータを扱っている経験から、データ精度がなかなか向上しないという問題も対応が急がれ、詳細な診療アクティビティ情報を統合データベース化するに際して、データ入力の手間を省くとともに、アクティビティ付帯情報の精度向上を図る必要があり、例えば、ICチップの利用等マンマシンインターフェース系の強化も望まれるところである。
 このような視点を一例として病院情報システムは進化を続け、それに呼応して病院のマネジメントシステムを前半で述べた形に近づけることで、真の病院経営の効率化が統合された形で進むものと思われる。
本論文は、「月刊新医療(08年11月号)」に掲載されました。
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