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医療の質指標を読み解く(全9回)第4回:血液培養2セット実施率

COLUMN

2025.10.22

第4回は「血液培養2セット実施率」についてお話しします。

「血液培養」とは、血液の中に細菌や真菌がいないかを調べる検査のことです。高熱が出ている患者さんや、感染症が疑われる患者さんに対して行われます。血液から病原菌が検出されれば、それが原因菌である可能性が高く、適切な抗菌薬を選ぶための重要な情報となります。

この検査では、通常、「2セット」、つまり左右の腕など、2カ所の血管から同時に血液を採取します。この「2セット」で実施することが重要とされています。

1.なぜ「2セット」が重要なのか?

血液培養は、ただ単に「菌がいるかいないか」を調べるだけでなく、「検査結果の信頼性」を確保するために2セットで行う必要があるのです。

コンタミネーション(汚染)の判別
採血時に、患者さんの皮膚に元々いる常在菌(ブドウ球菌など)が、針を通して血液中に混入してしまうことがあります。これを「コンタミネーション」と呼びます。1セットしか採取しない場合、もし菌が検出されても、それが本当に患者さんの体内で増殖している菌なのか、それともコンタミネーションなのかを区別するのが困難です。しかし、2セットで採取し、両方のボトルから同じ菌が検出されれば、体内の病原菌である可能性が高いと判断できます。

菌血症の検出率向上
血液中の菌の数は、常に一定ではありません。発熱時でも、少ない場合もあれば、一時的に増えることもあります。2セットで採取することで、より多くの血液を検査でき、菌血症(血液中に菌がいる状態)を見つけ出す確率を高めることができます。つまり、血液培養2セット実施率が高いということは、「正確な診断に基づいた治療が行われている」ことを示唆していると言えます。

2.指標の計算式

この指標は、以下の式で算出されます。

血液培養2セット実施率(%)=(血液培養オーダーが1日に2件以上ある日数 / 血液培養オーダー日数) × 100

3.指標を改善するための取り組み案

検査オーダーシステムの改善
医師が血液培養をオーダーする際に、初期設定として「2セット」が選択されるように、電子カルテのシステムを改善します。医師が1セットしかオーダーできないようにする、または1セットでオーダーする際に「なぜ1セットなのか」理由の入力を求める、といった仕組みも有効です。

監査とフィードバック
医療安全委員会や感染対策チームが、血液培養2セット実施率のデータを定期的に監査し、各病棟や部署へフィードバックします。実施率が低い部署に対しては、原因を一緒に分析し、改善策を検討します。

4.データ分析の視点:事務職員が果たす役割

この指標の改善においても、データ分析が役立ちます。

①実施率の「見える化」
血液培養2セット実施率を、月ごと、病棟ごと、医師ごとにグラフ化し、「見える化」します。実施率の低い部署や医師を特定し、集中的な改善活動の対象とすることができます。

②コンタミネーション率との関連性分析
血液培養の結果データ(菌種)と、実施セット数を組み合わせて分析します。「2セット実施率が低い部署は、コンタミネーション率が高い傾向にあるか?」という視点で分析することで、2セット実施がコンタミネーションを防ぐ上でいかに重要かを証明できます。

③抗菌薬適正使用との関連性分析
血液培養2セット実施率が低い場合、コンタミネーションと本物の菌の区別が難しくなり、不適切な抗菌薬投与につながる可能性があります。血液培養のデータと、その後の抗菌薬の処方データを組み合わせて分析し、「不適切な抗菌薬投与が、検査の不正確さから生じていないか」を検証できます。これは、病院全体の抗菌薬適正使用を推進する上で、重要な情報となります。

5.おわりに

血液培養2セット実施率という指標は、一見すると地味な数値に思えるかもしれません。しかし、その背後には、「正確な検査に基づいた、正しい診断と治療」という、医療の根幹をなす重要な要素が隠されています。 次回は「広域スペクトル抗菌薬使用時の細菌培養実施率」についてお話しします。