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株式会社健康保険医療情報総合研究所
Planning, Review and Research Institute for Social insurance and Medical program (abbr. PRRISM)
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2025.11.26
本連載は今回が最終回です。第9回は「身体的拘束の実施率」についてお話しします。
「身体的拘束」とは、患者さんの行動を抑制するために、ベッドに固定したり拘束帯を使用したりすることです。患者さんの安全を確保するためにやむを得ず行われる場合がありますが、同時に、患者さんの尊厳を傷つけ、精神的・身体的な苦痛を与える行為でもあります。
この指標が低いということは、拘束以外の方法で、患者さんの安全を確保しようとする取り組みが、病院全体で進んでいることを示唆します。
身体的拘束の代わりとなる代替策としては、以下のようなものがあります。
環境整備:ベッド柵の撤去と低床化、転倒防止マットの設置など。
人的介入:見守りの強化、声かけ、リハビリテーション、レクリエーションなど。
多職種連携:精神科医、作業療法士、理学療法士などが、拘束を必要とする行動の原因を特定し、根本的な解決策を検討する。
この指標は、以下の式で算出されます。
身体的拘束の実施率(%)=(分母のうち、身体的拘束日数の総和 / 退院患者の在院日数の総和) × 100
身体的拘束最小化のためのガイドライン策定
医療安全委員会や倫理委員会が中心となり、拘束を最小化するための院内ガイドラインを策定します。「拘束は最後の手段であること」「拘束を行う際には必ず多職種で検討し、記録に残すこと」などを明記します。
代替策の教育と啓発
看護師や介護士など、直接患者さんと関わる職員に対して、拘束以外の方法で患者さんの安全を確保する方法について、定期的な研修を行います。拘束の代替策に関する成功事例を共有し、職員全体の意識を高めます。
多職種チームによる検討
身体的拘束を検討する際は、医師、看護師、理学療法士、精神科医、医療ソーシャルワーカーなどが集まり、拘束の必要性と、拘束以外の方法がないかを徹底的に検討します。
この指標の改善に関するデータ集計・分析として、以下が挙げられます。
①拘束実施データの「見える化」と原因分析
身体的拘束の実施状況をグラフ化し、「見える化」します。
「特定の時間帯に拘束が行われやすいか?」「特定の診療科で実施率が高いか?」「入院後どのくらいの期間で実施されることが多いか?」といった視点で分析することで、拘束の根本的な原因を特定できます。
②代替策の導入効果の検証
新しい見守りシステムやセンサーマットを導入した場合、導入前と後での身体的拘束実施率の変化を数値で示します。これにより、そのシステムの有効性を客観的に証明できます。
身体的拘束の実施率という指標は、単なる数値ではありません。それは、患者さんの尊厳と、病院が社会から寄せられる信頼を測るものです。
「医療の質指標」は、一見すると専門的で解釈が難しいと感じるかもしれません。しかし、その数字の裏側には、医療の質を向上させるためのヒントが隠されています。 病院事務職員の皆さんがデータ分析力を向上させることは、患者さんの安全や医療従事者の取り組みを可視化し、より良い医療を実現するための手がかりを見つけることにつながります。