株式会社健康保険医療情報総合研究所

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医療の質指標を読み解く(全9回)第8回:65歳以上の患者の入院早期の栄養アセスメント実施割合

COLUMN

2025.11.19

第8回は「65歳以上の患者の入院早期の栄養アセスメント実施割合」についてお話しします。

高齢の患者さんは、様々な要因から栄養状態が悪化しやすい傾向にあります。栄養不良は、免疫力の低下、褥瘡の悪化、合併症のリスク増加など、様々な問題を引き起こし、治療の妨げとなります。

そのため、入院した患者さんの栄養状態を早期に把握し、適切な栄養管理を行うことが、安全な入院生活と早期の回復のために重要となります。

1.なぜ「65歳以上」と「入院早期」が重要なのか?

この指標が高いということは、特にリスクの高い患者さんに対して、入院直後から適切な栄養管理が開始されていることを示唆します。
65歳以上:この年齢層は、食欲不振、嚥下機能の低下、慢性疾患、複数の薬の服用など、様々な要因から栄養不良になりやすいことが分かっています。
入院早期:入院後の環境変化やストレスにより、栄養状態の悪化がさらに進行する可能性があります。入院の早い段階で栄養状態を評価し、介入することで、栄養不良の進行を防ぎ、合併症のリスクを下げることができます。

2.指標の計算式

この指標は、以下の式で算出されます。

65歳以上の患者の入院早期の栄養アセスメント実施割合(%)=(分母のうち、入院後48時間以内に栄養アセスメントが実施された患者数 / 65歳以上の退院患者数) × 100

3.指標を改善するための取り組み案

アセスメントツールの活用と全職員への教育
簡易的な栄養アセスメントツール(NRS-2002など)を導入し、入院時の問診に組み込みます。看護師や医療ソーシャルワーカーなど、患者さんと最初に関わる職員が、アセスメントツールを使いこなせるよう、研修を行います。

多職種連携による栄養管理の徹底
栄養アセスメントで栄養不良と判断された患者さんに対しては、医師、看護師、栄養士、薬剤師などが連携して栄養管理計画を立てます。経口摂取が難しい患者さんには、栄養士が経管栄養や静脈栄養の計画を立案し、チーム全体で実行します。

4.データ分析の視点:事務職員が果たす役割

この指標の改善においても、データ分析が役立ちます。

実施割合の「見える化」と原因分析
月ごと、病棟ごと、診療科ごとの栄養アセスメント実施割合をグラフ化し、「見える化」します。
実施割合が低い部署を特定し、「なぜ実施できていないのか?」を分析します。例えば、「多忙な時間帯でアセスメントが漏れている」などの原因が見つかれば、業務改善案を提案できます。

②栄養アセスメント未実施患者の追跡
「栄養アセスメントが未実施だった患者さん」のリストを抽出し、その後の経過(入院期間、合併症の有無、治療費など)を追跡します。「栄養アセスメントが未実施だった患者さんは、入院期間が長くなる傾向がある」といった相関関係を数値で示すことで、栄養アセスメントの重要性を院内に強く訴えることができます。

5.おわりに

入院中の栄養管理は、患者さんの体力回復と合併症予防に重要です。「患者さんがより安全で、快適な入院生活を送る」という病院の質の向上に向けて、ぜひデータを活用してみてください。 次回は「身体的拘束の実施率」についてお話しします。