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医療の質指標を読み解く(全9回)第9回:身体的拘束の実施率
2025.11.26
株式会社健康保険医療情報総合研究所
Planning, Review and Research Institute for Social insurance and Medical program (abbr. PRRISM)
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2025.12.03
地域包括医療病棟(以下、地包医病棟)は、2024年度診療報酬改定において新設された入院料であり、高齢化が進む医療提供体制における中核的な役割を担うことが期待されています。その創設の主な目的は、高齢者の急性期医療、特に誤嚥性肺炎や尿路感染症などの内科系疾患や多疾患併存患者に対応し、急性期治療後の継続的な医療、早期からのリハビリテーション、栄養管理、そして退院支援を総合的に提供する「包括期入院医療」の実現にあります。
この病棟は、地域医療構想の中で想定される「包括的な入院医療を担う医療機関の機能」と深く連動しており、地域の高齢者救急から在宅復帰までを切れ目なく支える機能分化の推進役として位置づけられています。地包医病棟は、従来の急性期病棟と地域包括ケア病棟(以下、地ケア病棟)の間に位置し、急性期からの「下り搬送」や、介護施設等からの「上り搬送」を含む、幅広い高齢者救急の受け皿となることが期待されていました。
また、地包医病棟の新設は、急性期病棟の再編議論と強く連動していました。2024年度改定の答申書附帯意見では、地包医病棟の創設に伴い、看護配置「10対1」の急性期一般入院料2~6について、その入院機能を明確化した上で「再編を含め評価の在り方を検討する」ことが盛り込まれています。
この経緯から、地包医病棟は、実質的に、これまで10対1病棟として高齢者救急対応を主としてきた医療機関の機能転換の受け皿として機能することが政策的に強く望まれていました。
地包医病棟は、主に急性期病棟からの移行促進が想定されていましたが、その届出件数は、「思いのほか伸びていない」という実態が明らかになっています。厚生局の届出受理医療機関名簿を元に集計すると、2025年9月時点の届出件数は197病院に留まっています。
この届出件数の伸び悩みは、地包医病棟が受け入れている患者層の特性と、設定された施設基準の厳格さとの間に構造的なミスマッチが存在することが原因と考えられます。
中医協資料によると、地包医病棟の入院患者は、80歳以上が全体の3分の2を占め、要介護認定を受けている患者が多いなど、高齢でケアニーズが高いことが特徴です。このような患者像に対し、地包医病棟の施設基準が厳しすぎることが、移行を検討する多くの医療機関にとって大きな障壁となっていると推測します。
地包医病棟への移行を阻む要因として、特にアウトカム評価として設定された実績基準の厳格さが挙げられます。多くの医療機関が、病棟の本来の機能である高齢者救急対応を積極的に行うほど、基準達成が困難になるというジレンマに直面しています。
届出を困難にする具体的な施設基準として、以下が挙げられます。
このような実態を踏まえ、中医協では施設基準の見直しが喫緊の課題として議論されています。
【診療側の主張】診療側委員は、入院患者の80歳以上が大半で要介護認定を受けている現状では、現行基準の達成は困難であるとして、「要件の緩和は必須」と主張しています。高齢者救急の受け皿としての機能を発揮し、地包医病棟への移行を後押しするためには、基準緩和が必要であると訴えています。
【支払側の主張】一方、支払側委員は、評価体系の見直し自体には理解を示しつつも、基準緩和により「前回の改定で創設したコンセプトが損なわれることは避けるべき」と強調しています。無条件の一律緩和ではなく、対象患者を絞った対応を主張しており、以下の具体的な提案がなされています。
在院日数: 「特に在院日数が長い85歳以上の患者が多い場合に限り、別途基準を設けるのが妥当」という、患者属性に応じた基準設定を求めています。
ADL低下割合: ADLが低下した患者割合が高い場合の救済措置としての検討を要求しています。
地包医病棟の議論は、施設基準の緩和に加えて、包括評価の仕組みそのものが、高齢者医療の実態に適合していないという構造的な課題にも焦点が当てられています。
高齢者救急の特徴は、救急搬送から入院となり、大半を誤嚥性肺炎や脳梗塞、尿路感染症などの内科系症例が占める点にあります。中医協にて提示されたデータによると、地包医病棟の包括評価では、内科系症例において、包括されている診療行為等を出来高換算した点数(投下医療資源)が、実際の請求点数よりも高くなる傾向が明確に示されました。
この論点については、中医協にて以下の見直しが議論されています。
地包医病棟の創設後、看護配置10対1である急性期一般入院料2-6を併設する医療機関における実態調査の結果、両病棟間で患者像が重複していることが明らかになりました。
中医協にて提示された資料によると、同一施設内で地包医病棟と急性期一般入院料2-6を有する医療機関において、入院時の患者の年齢、ADL、重症度、医療・看護必要度のA項目の点数の分布がほぼ一致しており、疾患の傾向も類似していることが判明しています。
この患者像の近似性は、急性期一般入院料2-6が、本来の高度急性期機能を発揮できておらず、実質的に「包括期」の医療を提供していることを客観的に示しています。
これを受け、支払側委員は、「両病棟の併設は医療資源が豊富な大都市部に多く、(両病棟の併設を認める)必要性は高くない」と指摘しています。また、将来的には入院料の一本化も視野に入れつつ、急性期一般入院料2-6を包括期の入院医療と位置づけることも含め、病院単位での機能転換を進めるべきと主張しています。
地包医病棟と地ケア病棟は、入院患者の上位疾患がおおむね一致しており、特に急性期病棟を併設しない地ケア病棟に直接入棟する患者の疾患は、地包医病棟の患者と相当程度一致していることがわかっています。
この機能の近接性から、地ケア病棟に対しても、地包医病棟への移行を促すか、あるいは地ケア病棟自体で新たな評価を設けるか、いずれかの方向で議論が進んでいます。
■ 緊急入院の評価強化
地ケア病棟においても、自宅や介護施設からの緊急入院は、予定入院に比べ、包括範囲出来高点数が高い傾向にあります。この高い医療資源投入量を評価するため、初期加算において、救急搬送からの入院と予定入院との差を明確にし、報酬にメリハリをつけるべきとの意見が出ています。
■ 管理栄養士配置の評価
地包医病棟には専任の常勤管理栄養士配置基準がありますが、地ケア病棟には管理栄養士の配置基準がありません。このため、地ケア病棟においても、管理栄養士配置を促進する改定が必要との意見が出ています。
また、診療側委員は、管理栄養士配置を促進する方向性に賛同を示しつつ、「小規模な医療機関も多い点を踏まえ、管理栄養士配置は選択制にすべき」、「栄養管理に関する加算・指導料の出来高算定を認めるべき」といった見解を示しています。
2026年度改定は、地包医病棟の届出が停滞している現状を打破し、地域医療構想における「包括期」の評価を抜本的に見直すものになると予測されます。この改定は、特に現在、急性期一般入院料2-6や地ケア病棟を届出している医療機関の経営戦略に直接的な影響を与えるでしょう。
地包医病棟の施設基準の緩和は、政策目標の達成に向けた不可避な方向性です。ただし、一律の緩和ではなく、特定の患者層や機能に応じた多段階の評価が導入される可能性が高いです。
平均在院日数やADL低下割合といったアウトカム指標については、支払側の主張を踏まえ、85歳以上の患者割合が多い病棟に対して、より現実的な数値基準を別途設ける可能性があります。この多段階評価の導入により、高齢者救急を積極的に受け入れる病院の努力が、基準達成の困難さという形で「負のインセンティブ」となる状況が是正される見込みです。
地包医病棟の構造的な課題である内科系症例の収益性不均衡の是正は、2026年度改定における最重要課題の一つです。
中医協の議論では、内科系疾患の出来高算定範囲の拡大が検討されており、内科系の診療で頻度の高い薬剤や検査を包括範囲から除外(出来高算定化)することで、医療資源投入量の多さを適切に反映させる方向性が示されています。これにより、高齢者の内科系救急対応における経営的な負担が軽減される見込みです。
また、医療資源投入量に合わせた評価を行うため、緊急入院か否か、手術の有無など、入院経路や診療内容に基づき、包括点数に差をつける多段階評価の導入が検討されています。特に救急搬送による緊急入院(手術なし)は、予定入院に比べ出来高換算点数が高いことが明らかになっているため、この評価強化は、救急対応の積極性を収益に直結させることにつながります。
加えて、包括評価ゆえに病院の受け入れを躊躇させている高額薬剤の使用に関する議論も本格化しています。トルバプタンや生物学的製剤など、地域包括医療病棟や地ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟等における薬剤の包括範囲のあり方が具体的に検討され、出来高算定への移行が議論される可能性が高いです。
地包医病棟が地域の救急・後方支援機能を確実に担うため、病院単位での実績評価と地域連携の評価が強化されます。
まず、協力対象施設入所者入院加算の算定対象拡大が検討されています。現在、在宅療養支援病院や地ケア病棟等に限定されているこの加算について、介護施設からの緊急入院を多く受け入れている地包医病棟も算定対象に含める方向性が示唆されています。これは、地包医病棟が介護施設との連携を強化し、緊急時の受け入れ体制を確立するための重要なインセンティブとなります。
さらに、看護必要度の評価において、救急対応の実績を加味する仕組みが検討されています。具体的には、1床当たりの救急搬送件数や協力対象施設入所者入院加算の算定数を算出し、その合計値を看護必要度の該当患者割合に加える案などが議論されています。これは、内科系症例で看護必要度のA項目が得点しにくい現状を修正し、救急対応の努力を正当に評価することを目的としています。
急性期一般入院料2-6を算定している病院は、地包医病棟との機能重複がデータで明確になったため、2026年度に評価体系が根本的に変更されるリスクに備える必要があります。病院は以下のいずれかの戦略的判断を行うことが急務です。
高度急性期機能への集中: 全身麻酔手術件数や救急搬送件数を増加させ、急性期一般入院料1の機能を目指し、真の「拠点的な急性期機能」を発揮する。
包括期医療への特化: 地包医病棟への移行を前提とし、内科系高齢者救急の受け入れ体制、早期リハビリテーション、栄養管理体制を強化する。支払側が「一本化」を主張している背景を踏まえ、機能転換のスピードを加速させることが、経営リスク回避につながります。
医事課や経営企画部門においては、自院の急性期一般2-6病棟や地ケア病棟の患者について、内科系疾患・手術なし症例の包括範囲出来高点数と実際の請求点数を比較する詳細な分析が必要です。これにより、内科系薬剤・検査の出来高算定範囲拡大が実現した場合の収益改善効果を試算し、移行の財務的なメリットを定量化できます。
協力対象施設入所者入院加算の算定対象拡大など、地域連携機能の評価強化が進むことから、介護保険施設との平時からの連携を強化し、緊急時の受け入れ体制を確立することが、収益確保と地域貢献の両面で不可欠です。
参考資料:厚生労働省「中央社会保険医療協議会総会資料 入院について(その4)」2025年11月5日
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