株式会社健康保険医療情報総合研究所
Planning, Review and Research Institute for Social insurance and Medical program (abbr. PRRISM)
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する当研究所の執務対応の方法について
NEWS
2021.01.13
当研究所は、今般の「緊急事態宣言」及び東京都の「緊急事態行動」を踏まえて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染予防及び拡散防止のため、一時的に当研究所内における執務を、可能な限り在宅勤務に切り替え、日本全国の出張業務を原則禁止することをもって鋭意対応いたします。
つきましては、在宅勤務の期間中における弊社宛のご連絡方法については以下のとおり実施いたします。
当研究所医療ITソリューションセンター(営業:03-5511-8153、テクニカルサポート:03-6257-3903)、及びヘルスケア政策&マネジメントセンター コンサルティングGr(03-6257-3902)における電話対応は、自動音声によるご案内となる場合がございます。すぐに応答ができかねる場合がございますが、何とぞご理解くださるようお願いいたします。
メールの運用は変わりませんので、ご用件の場合は、これまでと同様に各部署担当者宛にメール等にてご連絡ください。
ファックスは受信後確認され次第各担当者へメールにて転送する手順となりますことから、お急ぎの要件については各担当者のメールへ電子媒体にてお送りくださるようお願いいたします。
確認が遅れる可能性がありますので、可能な限り、メール等電子媒体にて各担当者にお送りいただくようお願いいたします。
何とぞご理解のほど宜しくお願い申し上げます。
2026年度(令和8年度)診療報酬改定セミナー
SEMINAR
2025.12.10
2026年度の診療報酬改定セミナーは、3つのテーマに分けてご提供いたします。
第1弾 短冊の速報編
本コンテンツは、「とにかく早く、改定情報を把握したい!」という方向けです。
中医協総会にて公開予定の個別改定項目(短冊)をベースにして、「何の、何が、どうなる?」の視点でとりまとめを行います。(例:医療安全対策加算の、施設基準が、〇〇と△△の新項目2つ追加になる)
短冊は、厚労省の考える課題(論点)ごとにグルーピングされているため、欲しい情報が探しづらい、見落としてしまうというお声もあり、今回は入院料・入院加算・外来・DPC・特掲診療料など、診療報酬上のトピックごとに動画を配信します。
10~20分程度の動画を、2月上旬から順次公開していきます。
第2弾 経営戦略への落とし込み編
本コンテンツは、「改定を機に収益を向上させたい」 「情報の見落としによる収益減少を防ぎたい」という方向けです。
収益の大部分を占める入院料の改定情報を、高度急性期・急性期・包括期・回復期・慢性期ごとに深掘りするとともに、改定の背景や目的、病床機能の転換を検討した方が良い病院の特徴などを解説いたします。
また、新設された加算等や減算ルールを洗い出し、収益変動に影響を与える改定情報を厳選して提供いたします。
第3弾 改定対応の実践編
本コンテンツは、「新設された加算等を取得した際の、増収シミュレーションをしたい」 「新設加算等の増収額と施設基準を整備する負荷のバランスを把握したい」という方向けです。
新設された加算等の算定要件・施設基準をもとに、どのような手順でシミュレーションを行えば良いかを解説いたします。(例:〇〇加算の算定要件は△△なので、様式1ファイルから□□の疾患がある患者を抽出すれば、算定見込み患者数が算出できる)
※Excelや分析ツール等の自院診療データを集計できる環境(他社ツール含む)を有している前提でご説明します。
ニーズに合わせて、お好きなコンテンツを受講いただけますと幸いです。
留意事項
〇本Webセミナーは、ネクプロ社のセミナー配信サイトを使用します。推奨環境や視聴テストは、こちらをご覧ください。(注:リンク先では音声が流れます)
○受講にあたり、受講者側のカメラやマイクは使用しません。
申込後、24時間経っても申込受理メールが届かない場合、下記の理由が考えられます。
恐れ入りますが、メールフォルダや受信設定のご確認をお願いいたします。
○ メールアドレスを誤って申込をされている
○ 迷惑メールフォルダに振り分けられている
○ メールボックスの最大容量を超えてしまっている
○ 通信会社の迷惑メールサービスにより、メールがブロックされている
2026年度(令和8年度)診療報酬改定コラム:短期滞在手術等基本料3に関する2026年度診療報酬改定の方向性と病院経営への示唆
COLUMN
2025.12.10
1. 「短期滞在手術等基本料3」の制度的基盤とこれまでの改定経緯
1.1 短期滞在手術等基本料の定義
短期滞在手術等基本料は、医療資源の効率的な活用と患者負担の軽減を目指し、短期間(日帰りから4泊5日まで)で実施可能な手術、検査、または放射線治療について、包括的な評価を行うために設けられた制度です。
この制度は、手術・検査そのものの費用に加え、それに必要な術前・術後の管理、および定型的に必要とされる検査、画像診断などを包括的に評価する仕組みとなっています。
基本料は、実施形態により以下の区分に分けられています。
短期滞在手術等基本料1: 日帰り(外来)で行う場合の包括評価です。
短期滞在手術等基本料3: 短期入院(4泊5日まで)で行う場合の包括評価です。
なお、かつては「短期滞在手術等基本料2」(1泊2日)が存在しましたが、算定回数の少なさや、対象手術の平均在院日数が2日を大きく上回る実態が判明したため、制度のシンプル化と実態に見合った見直しが議論され、廃止された経緯があります。
1.2 「短手3」を巡る主要な改定の経緯(2018年度改定を中心として)
短期滞在手術等基本料の制度設計は、診療報酬改定のたびに「包括化」と「効率化」に焦点が当てられてきました。
特に2018年度改定の議論では、短手3の対象手術・検査の拡大が主要な論点となりました。この議論は、短手3の対象になっていない手術の中にも、在院日数が短く、出来高算定における点数のばらつきが少ない、つまり医療資源投入量が標準化されている手術が存在するという分析に端を発しています。
結果として、在院日数や点数実績のばらつきが小さいと評価された「4つの技術」を短手3に追加することになりました。これは、医療の標準化が進んでいる分野については包括評価の範囲を広げ、出来高評価による過剰診療を防ぐという意図が明確に反映された動きです。
なお、2018年度改定の議論では、短手3の対象拡大の検討と並行して、DPC対象病院による短手3の算定不可とする変更(いわゆる「D方式」への統一)も行われました。これは、短期滞在手術等基本料とDPCの包括評価の整合性を図るための措置でした。
2. 短期滞在手術における入院・外来間のインセンティブ
2025年11月7日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会における厚生労働省の分析によると、内視鏡的大腸ポリープ切除術や水晶体再建術など、外来での実施率に病院間で大きなばらつきがある手術について、入院の方が高い点数設定となっており、この点数差が現行制度下での外来移行を阻害している要因であると指摘されています。
現行の入院インセンティブの歪みを裏付ける重要なデータとして、短期滞在手術を入院で実施する理由の内訳が挙げられます。厚労省の調査によると、臨床上の必要性(局所麻酔困難、認知症による安静困難など)が最多である一方で、「経営上、入院での実施が望ましいため」という理由が一定割合で存在することがわかっています(内視鏡的大腸ポリープ・粘膜切除術:14.5%、水晶体再建術(眼内レンズを挿入する場合):24.0%)。
「経営上の理由」による入院が一定割合存在する事実は、現行の診療報酬体系が、医療機関に対して医学的な妥当性とは異なる経済的なインセンティブを与えていることを示す動かしがたい証拠です。このデータは、支払側が「点数是正(引き下げ)を通じて外来への移行を促すべきだ」と主張する際の客観的な根拠となっていると推測します。
3. 2026年度診療報酬改定における「短期滞在手術等基本料3」の議論内容
3.1 厚労省の明確な方針:外来シフト推進と評価の適正化
同日の中医協総会において、厚生労働省は2026年度改定に向けた短期滞在手術等基本料の見直しを検討する方針を示しました。その目的は、入院で行う必要性が乏しい短期滞在手術の外来移行を促すことです。
具体的な見直し策として、厚労省は、短期滞在手術を入院で実施した場合の点数と、病院が外来で実施した場合の点数の差を縮小させる方針を提示しています。
さらに、制度の複雑性の解消を目指し、DPC対象病院が短手3を算定できない現状について、短期入院で手術を実施するならDPC対象病院も短手3を算定できるようにするなど、ルールの整理を検討するとしています。これは、現行のDPC算定では、短手3よりも点数が低く評価される傾向にあること、および出来高算定の高額化というインセンティブの歪みを解消する狙いがあるとみられます。
3.2 支払側の主張:報酬引き下げによる誘導と公平性の確保
支払側委員は、外来移行を促すための具体的な手段として、短期滞在手術を入院で行う場合の評価を引き下げることで、外来との点数差を縮小すべきと主張しています。
この主張の根拠は、第2章で示した通り、内視鏡的大腸ポリープ切除術や水晶体再建術の入院実施理由の一定割合が「経営上、望ましいため」であるというデータです。この経済的インセンティブの是正こそが、政策目標達成の鍵であると位置づけています。
また、DPC対象病院が短手3を算定できない点についても、支払側は、「同じ手術であれば同じ点数にすることが公平である」として、医療機関の種類に関わらず点数を揃えるべきだとの意見を寄せています。
3.3 診療側の主張:医学的必要性と経営の安定性への配慮
これに対し、診療側委員は、報酬引き下げによる強引な外来移行誘導に対して強い慎重論を表明しています。
診療側の主な主張は以下の通りです。
- 医学的必要性の重視: 術後管理の必要性、出血リスクの高い症例、認知症患者による安静困難、全身状態が不良な症例など、医学的必要性に迫られてやむを得ず入院対応している部分があることを強調しています。
- 経営悪化への懸念: 病院の経営状況が深刻化している中で、大幅な報酬見直しは経営基盤を揺るがしかねないため、厳に慎むべきであるとしています。
- 地域医療の実情: 交通アクセスが悪く、日帰りが困難な患者が存在するなど、地理的な制約も考慮し、一律の報酬引き下げに難色を示しています。
3.4 議論の隔たりと調整の難航予測
支払側は「経営インセンティブの是正」に焦点を当て、診療側は「臨床上の安全性と個別性」に焦点を当てており、議論の土台に大きな隔たりが存在します。この隔たりの大きさから、短期滞在手術等基本料の見直しに関する調整は難航する可能性が高いと予測されます。政策決定においては、経営的な合理性と臨床的な安全性の確保をいかに両立させるか、という難しいバランスが求められています。
4. 2026年度診療報酬改定の方向性の予測
4.1 報酬の適正化(実質的な引き下げ)
入院実施理由における「経営上の理由」が一定割合存在するという客観的なデータ、および外来シフトが国の明確な政策目標であるという事実に基づき、短期滞在手術等基本料3の点数は引き下げられる可能性が高いです。
この「適正化」は、短手3の点数と、外来での短手1の点数との間の差を部分的に解消する方向で調整されると予測されます。この引き下げは、短期滞在手術を主に提供する医療機関の収益構造に直接的な影響を与えることになります。
4.2 DPC病院への短手3適用拡大の可能性
DPC対象病院が短期入院手術に対して短手3を算定できるように、ルールの整理が進む可能性は高いです。このルールの変更は、単に公平性を確保するだけでなく、短期滞在手術の評価全体を包括評価の下で標準化し、価格コントロールを容易にするという政策的意図があると考えられます。
5. 病院経営への示唆
5.1 インパクト分析の実施
2026年度改定に向けた病院経営の最優先課題は、短期滞在手術部門の収益減少リスクの定量化です。特に内視鏡的大腸ポリープ切除術や白内障手術など、短手3対象手術の入院件数に占める「経営上の理由」による割合を考慮に入れ、予測される点数引き下げ幅に基づき、手術部門全体における収益減少額を具体的にシミュレーションする必要があります。
5.2 外来手術へのシフト戦略と体制強化
報酬体系が「入院から外来へのシフト」という方向で改定されることに備え、外来手術部門の体制強化が急務となります。
- 外来手術センターの整備・拡充: 患者動線の効率化、専門知識を持つ看護師の配置、術前・術後管理パスの明確化を推進し、安全かつ迅速な日帰り手術体制が求められます。
- 施設基準への先行対応: 外来での安全管理体制や、術後合併症発生時の地域医療機関との連携体制(病診連携)が新たな施設基準として設定される可能性を考慮し、先行投資を行うことが競争力を高めると考えます。
参考資料:厚生労働省「中央社会保険医療協議会総会資料 個別事項について(その6)」2025年11月7日
上記のコラムのような「改定の動向をいち早くキャッチする」、「病院経営への影響度を理解する」ことを目的とした診療報酬改定セミナーを開催予定です!是非この機会にお申込ください!
2026年度(令和8年度)診療報酬改定コラム:「包括期医療」を担う入院料再編と病院経営への影響
COLUMN
2025.12.03
1. 地域包括医療病棟の役割と創設経緯
1.1. 2024年度改定における位置づけと「包括期入院医療」の概念
地域包括医療病棟(以下、地包医病棟)は、2024年度診療報酬改定において新設された入院料であり、高齢化が進む医療提供体制における中核的な役割を担うことが期待されています。その創設の主な目的は、高齢者の急性期医療、特に誤嚥性肺炎や尿路感染症などの内科系疾患や多疾患併存患者に対応し、急性期治療後の継続的な医療、早期からのリハビリテーション、栄養管理、そして退院支援を総合的に提供する「包括期入院医療」の実現にあります。
この病棟は、地域医療構想の中で想定される「包括的な入院医療を担う医療機関の機能」と深く連動しており、地域の高齢者救急から在宅復帰までを切れ目なく支える機能分化の推進役として位置づけられています。地包医病棟は、従来の急性期病棟と地域包括ケア病棟(以下、地ケア病棟)の間に位置し、急性期からの「下り搬送」や、介護施設等からの「上り搬送」を含む、幅広い高齢者救急の受け皿となることが期待されていました。
また、地包医病棟の新設は、急性期病棟の再編議論と強く連動していました。2024年度改定の答申書附帯意見では、地包医病棟の創設に伴い、看護配置「10対1」の急性期一般入院料2~6について、その入院機能を明確化した上で「再編を含め評価の在り方を検討する」ことが盛り込まれています。
この経緯から、地包医病棟は、実質的に、これまで10対1病棟として高齢者救急対応を主としてきた医療機関の機能転換の受け皿として機能することが政策的に強く望まれていました。
1.2. 現状の届出状況
地包医病棟は、主に急性期病棟からの移行促進が想定されていましたが、その届出件数は、「思いのほか伸びていない」という実態が明らかになっています。厚生局の届出受理医療機関名簿を元に集計すると、2025年9月時点の届出件数は197病院に留まっています。
この届出件数の伸び悩みは、地包医病棟が受け入れている患者層の特性と、設定された施設基準の厳格さとの間に構造的なミスマッチが存在することが原因と考えられます。
中医協資料によると、地包医病棟の入院患者は、80歳以上が全体の3分の2を占め、要介護認定を受けている患者が多いなど、高齢でケアニーズが高いことが特徴です。このような患者像に対し、地包医病棟の施設基準が厳しすぎることが、移行を検討する多くの医療機関にとって大きな障壁となっていると推測します。
2. 移行を阻む施設基準と中医協での基準緩和議論
2.1. 届出を困難にする具体的な施設基準
地包医病棟への移行を阻む要因として、特にアウトカム評価として設定された実績基準の厳格さが挙げられます。多くの医療機関が、病棟の本来の機能である高齢者救急対応を積極的に行うほど、基準達成が困難になるというジレンマに直面しています。
届出を困難にする具体的な施設基準として、以下が挙げられます。
- 平均在院日数が21日以内であること
地包医病棟に入院する患者は80歳以上が多数を占め、基礎疾患や多疾患併存により、平均在院日数が長くなる傾向があります。中医協資料にて提示されたデータによると、85歳以上の患者の在院日数の中央値は、85歳未満と比べて5~6日程度延長し、13日(85歳未満は7日)であることが示されており、在院日数21日以内という基準は実態に合わないと指摘されています。 - 退院時ADL低下患者の割合が5%未満であること
地包医病棟が主に受け入れている85歳以上の高齢者や要介護認定者では、それ以外の患者と比較して、退院時にADL(日常生活動作)が低下する割合が高くなります。また、予定手術後の患者もADLが低下しやすいため、この基準は、急性期からの受け皿としての機能を果たす上で、高いハードルとなっています。
このアウトカム指標が厳しすぎることが、質の高いリハビリ・栄養管理を目指す評価であるにもかかわらず、ADL低下リスクの高い超高齢患者の受け入れを躊躇させる「負のインセンティブ」を生んでいると指摘されています。 - 休日を含めすべての日にリハビリテーションを提供できる体制の整備
常勤の理学療法士、作業療法士、または言語聴覚士の配置を含むこの体制要件は、特に人員確保や運用コストの面から、多くの医療機関にとって障壁となっています。
2.2. 施設基準緩和を求める議論
このような実態を踏まえ、中医協では施設基準の見直しが喫緊の課題として議論されています。
【診療側の主張】診療側委員は、入院患者の80歳以上が大半で要介護認定を受けている現状では、現行基準の達成は困難であるとして、「要件の緩和は必須」と主張しています。高齢者救急の受け皿としての機能を発揮し、地包医病棟への移行を後押しするためには、基準緩和が必要であると訴えています。
【支払側の主張】一方、支払側委員は、評価体系の見直し自体には理解を示しつつも、基準緩和により「前回の改定で創設したコンセプトが損なわれることは避けるべき」と強調しています。無条件の一律緩和ではなく、対象患者を絞った対応を主張しており、以下の具体的な提案がなされています。
在院日数: 「特に在院日数が長い85歳以上の患者が多い場合に限り、別途基準を設けるのが妥当」という、患者属性に応じた基準設定を求めています。
ADL低下割合: ADLが低下した患者割合が高い場合の救済措置としての検討を要求しています。
3. 中医協にて議論されている「地域包括医療病棟の課題」
地包医病棟の議論は、施設基準の緩和に加えて、包括評価の仕組みそのものが、高齢者医療の実態に適合していないという構造的な課題にも焦点が当てられています。
3.1. 内科系症例の収益性
高齢者救急の特徴は、救急搬送から入院となり、大半を誤嚥性肺炎や脳梗塞、尿路感染症などの内科系症例が占める点にあります。中医協にて提示されたデータによると、地包医病棟の包括評価では、内科系症例において、包括されている診療行為等を出来高換算した点数(投下医療資源)が、実際の請求点数よりも高くなる傾向が明確に示されました。
この論点については、中医協にて以下の見直しが議論されています。
- 内科系/外科系の点数設定の分化: 内科系と外科系で公平になるように、地包医病棟の点数を細かく設定し、医療資源の投入量に応じた評価を行う。
- 出来高算定範囲の拡大: 内科系症例で頻度が高い薬剤や検査を包括範囲から除外し、出来高算定を可能にする見直しを行う。
- 包括点数のメリハリ付け: 緊急入院か否か、また手術の有無など、医療資源投入量の差が大きい要因に基づいて、包括点数に差をつける多段階評価を導入する。
3.2. 入院料における機能の重複
地包医病棟の創設後、看護配置10対1である急性期一般入院料2-6を併設する医療機関における実態調査の結果、両病棟間で患者像が重複していることが明らかになりました。
中医協にて提示された資料によると、同一施設内で地包医病棟と急性期一般入院料2-6を有する医療機関において、入院時の患者の年齢、ADL、重症度、医療・看護必要度のA項目の点数の分布がほぼ一致しており、疾患の傾向も類似していることが判明しています。
この患者像の近似性は、急性期一般入院料2-6が、本来の高度急性期機能を発揮できておらず、実質的に「包括期」の医療を提供していることを客観的に示しています。
これを受け、支払側委員は、「両病棟の併設は医療資源が豊富な大都市部に多く、(両病棟の併設を認める)必要性は高くない」と指摘しています。また、将来的には入院料の一本化も視野に入れつつ、急性期一般入院料2-6を包括期の入院医療と位置づけることも含め、病院単位での機能転換を進めるべきと主張しています。
3.3. 地域包括ケア病棟との機能分化
地包医病棟と地ケア病棟は、入院患者の上位疾患がおおむね一致しており、特に急性期病棟を併設しない地ケア病棟に直接入棟する患者の疾患は、地包医病棟の患者と相当程度一致していることがわかっています。
この機能の近接性から、地ケア病棟に対しても、地包医病棟への移行を促すか、あるいは地ケア病棟自体で新たな評価を設けるか、いずれかの方向で議論が進んでいます。
■ 緊急入院の評価強化
地ケア病棟においても、自宅や介護施設からの緊急入院は、予定入院に比べ、包括範囲出来高点数が高い傾向にあります。この高い医療資源投入量を評価するため、初期加算において、救急搬送からの入院と予定入院との差を明確にし、報酬にメリハリをつけるべきとの意見が出ています。
■ 管理栄養士配置の評価
地包医病棟には専任の常勤管理栄養士配置基準がありますが、地ケア病棟には管理栄養士の配置基準がありません。このため、地ケア病棟においても、管理栄養士配置を促進する改定が必要との意見が出ています。
また、診療側委員は、管理栄養士配置を促進する方向性に賛同を示しつつ、「小規模な医療機関も多い点を踏まえ、管理栄養士配置は選択制にすべき」、「栄養管理に関する加算・指導料の出来高算定を認めるべき」といった見解を示しています。
4. 2026年度診療報酬改定の具体的方向性と病院経営への示唆
2026年度改定は、地包医病棟の届出が停滞している現状を打破し、地域医療構想における「包括期」の評価を抜本的に見直すものになると予測されます。この改定は、特に現在、急性期一般入院料2-6や地ケア病棟を届出している医療機関の経営戦略に直接的な影響を与えるでしょう。
4.1. 施設基準の緩和と多段階評価の導入
地包医病棟の施設基準の緩和は、政策目標の達成に向けた不可避な方向性です。ただし、一律の緩和ではなく、特定の患者層や機能に応じた多段階の評価が導入される可能性が高いです。
平均在院日数やADL低下割合といったアウトカム指標については、支払側の主張を踏まえ、85歳以上の患者割合が多い病棟に対して、より現実的な数値基準を別途設ける可能性があります。この多段階評価の導入により、高齢者救急を積極的に受け入れる病院の努力が、基準達成の困難さという形で「負のインセンティブ」となる状況が是正される見込みです。
4.2. 包括範囲の見直しと緊急入院の評価強化
地包医病棟の構造的な課題である内科系症例の収益性不均衡の是正は、2026年度改定における最重要課題の一つです。
中医協の議論では、内科系疾患の出来高算定範囲の拡大が検討されており、内科系の診療で頻度の高い薬剤や検査を包括範囲から除外(出来高算定化)することで、医療資源投入量の多さを適切に反映させる方向性が示されています。これにより、高齢者の内科系救急対応における経営的な負担が軽減される見込みです。
また、医療資源投入量に合わせた評価を行うため、緊急入院か否か、手術の有無など、入院経路や診療内容に基づき、包括点数に差をつける多段階評価の導入が検討されています。特に救急搬送による緊急入院(手術なし)は、予定入院に比べ出来高換算点数が高いことが明らかになっているため、この評価強化は、救急対応の積極性を収益に直結させることにつながります。
加えて、包括評価ゆえに病院の受け入れを躊躇させている高額薬剤の使用に関する議論も本格化しています。トルバプタンや生物学的製剤など、地域包括医療病棟や地ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟等における薬剤の包括範囲のあり方が具体的に検討され、出来高算定への移行が議論される可能性が高いです。
4.3. 救急患者受入機能と地域連携の評価強化
地包医病棟が地域の救急・後方支援機能を確実に担うため、病院単位での実績評価と地域連携の評価が強化されます。
まず、協力対象施設入所者入院加算の算定対象拡大が検討されています。現在、在宅療養支援病院や地ケア病棟等に限定されているこの加算について、介護施設からの緊急入院を多く受け入れている地包医病棟も算定対象に含める方向性が示唆されています。これは、地包医病棟が介護施設との連携を強化し、緊急時の受け入れ体制を確立するための重要なインセンティブとなります。
さらに、看護必要度の評価において、救急対応の実績を加味する仕組みが検討されています。具体的には、1床当たりの救急搬送件数や協力対象施設入所者入院加算の算定数を算出し、その合計値を看護必要度の該当患者割合に加える案などが議論されています。これは、内科系症例で看護必要度のA項目が得点しにくい現状を修正し、救急対応の努力を正当に評価することを目的としています。
4.4. 病院経営への影響と2026年に向けた準備
① 急性期一般入院料2-6算定病院の戦略的判断
急性期一般入院料2-6を算定している病院は、地包医病棟との機能重複がデータで明確になったため、2026年度に評価体系が根本的に変更されるリスクに備える必要があります。病院は以下のいずれかの戦略的判断を行うことが急務です。
高度急性期機能への集中: 全身麻酔手術件数や救急搬送件数を増加させ、急性期一般入院料1の機能を目指し、真の「拠点的な急性期機能」を発揮する。
包括期医療への特化: 地包医病棟への移行を前提とし、内科系高齢者救急の受け入れ体制、早期リハビリテーション、栄養管理体制を強化する。支払側が「一本化」を主張している背景を踏まえ、機能転換のスピードを加速させることが、経営リスク回避につながります。
② データに基づく収益シミュレーション
医事課や経営企画部門においては、自院の急性期一般2-6病棟や地ケア病棟の患者について、内科系疾患・手術なし症例の包括範囲出来高点数と実際の請求点数を比較する詳細な分析が必要です。これにより、内科系薬剤・検査の出来高算定範囲拡大が実現した場合の収益改善効果を試算し、移行の財務的なメリットを定量化できます。
③ 地域連携体制の強化と届出の選択
協力対象施設入所者入院加算の算定対象拡大など、地域連携機能の評価強化が進むことから、介護保険施設との平時からの連携を強化し、緊急時の受け入れ体制を確立することが、収益確保と地域貢献の両面で不可欠です。
参考資料:厚生労働省「中央社会保険医療協議会総会資料 入院について(その4)」2025年11月5日
上記のコラムのような「改定の動向をいち早くキャッチする」、「病院経営への影響度を理解する」ことを目的とした診療報酬改定セミナーを開催予定です!是非この機会にお申込ください!
医療の質指標を読み解く(全9回)第9回:身体的拘束の実施率
COLUMN
2025.11.26
本連載は今回が最終回です。第9回は「身体的拘束の実施率」についてお話しします。
「身体的拘束」とは、患者さんの行動を抑制するために、ベッドに固定したり拘束帯を使用したりすることです。患者さんの安全を確保するためにやむを得ず行われる場合がありますが、同時に、患者さんの尊厳を傷つけ、精神的・身体的な苦痛を与える行為でもあります。
1.なぜこの指標が重要なのか?
この指標が低いということは、拘束以外の方法で、患者さんの安全を確保しようとする取り組みが、病院全体で進んでいることを示唆します。
身体的拘束の代わりとなる代替策としては、以下のようなものがあります。
環境整備:ベッド柵の撤去と低床化、転倒防止マットの設置など。
人的介入:見守りの強化、声かけ、リハビリテーション、レクリエーションなど。
多職種連携:精神科医、作業療法士、理学療法士などが、拘束を必要とする行動の原因を特定し、根本的な解決策を検討する。
2.指標の計算式
この指標は、以下の式で算出されます。
身体的拘束の実施率(%)=(分母のうち、身体的拘束日数の総和 / 退院患者の在院日数の総和) × 100
3.指標を改善するための取り組み案
身体的拘束最小化のためのガイドライン策定
医療安全委員会や倫理委員会が中心となり、拘束を最小化するための院内ガイドラインを策定します。「拘束は最後の手段であること」「拘束を行う際には必ず多職種で検討し、記録に残すこと」などを明記します。
代替策の教育と啓発
看護師や介護士など、直接患者さんと関わる職員に対して、拘束以外の方法で患者さんの安全を確保する方法について、定期的な研修を行います。拘束の代替策に関する成功事例を共有し、職員全体の意識を高めます。
多職種チームによる検討
身体的拘束を検討する際は、医師、看護師、理学療法士、精神科医、医療ソーシャルワーカーなどが集まり、拘束の必要性と、拘束以外の方法がないかを徹底的に検討します。
4.データ分析の視点:事務職員が果たす役割
この指標の改善に関するデータ集計・分析として、以下が挙げられます。
①拘束実施データの「見える化」と原因分析
身体的拘束の実施状況をグラフ化し、「見える化」します。
「特定の時間帯に拘束が行われやすいか?」「特定の診療科で実施率が高いか?」「入院後どのくらいの期間で実施されることが多いか?」といった視点で分析することで、拘束の根本的な原因を特定できます。
②代替策の導入効果の検証
新しい見守りシステムやセンサーマットを導入した場合、導入前と後での身体的拘束実施率の変化を数値で示します。これにより、そのシステムの有効性を客観的に証明できます。
5.おわりに
身体的拘束の実施率という指標は、単なる数値ではありません。それは、患者さんの尊厳と、病院が社会から寄せられる信頼を測るものです。
「医療の質指標」は、一見すると専門的で解釈が難しいと感じるかもしれません。しかし、その数字の裏側には、医療の質を向上させるためのヒントが隠されています。 病院事務職員の皆さんがデータ分析力を向上させることは、患者さんの安全や医療従事者の取り組みを可視化し、より良い医療を実現するための手がかりを見つけることにつながります。
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COLUMN
2025.11.19
