株式会社健康保険医療情報総合研究所

Planning, Review and Research Institute for Social insurance and Medical program (abbr. PRRISM)

NEWS 
& COLUMNS

コラム

「医師の働き方改革」について考えよう!(第3回/全4回)~医師の労働時間の考え方と短縮のための方策~

COLUMN

2022.11.25

第2回では2024年4月以降に始まる、特定労務管理対象機関の水準について解説しました。
今回は、「当院はどの水準の届出をするべきか」を検討する際に把握しておかなければならない医師の労働時間の考え方について詳しく説明します。

勤務医は他の病院で副業・兼業をしていたり、宿日直をしたりすることもあります。また、研修や勉強などの自己研鑽を積んでいる時間も多く存在します。これら「副業・兼業先での労働時間」「宿日直の間の待機時間」「自己研鑽に使っている時間」をどのように取り扱うのかを理解していないと、勤務医の労働時間を適切に把握・管理することは困難です。

1.一般的な労働時間の考え方

一般的に、労働時間とは使用者が指揮命令下に置かれている時間のことを言い、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間にあたります。その判断基準は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」に記載されており、例えば、以下の3点も労働時間として扱う必要があります。

①使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
②使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
③参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

2.「医師の働き方改革」で考えるべき労働時間とは?

(1)把握すべき労働時間や状況
「医師の働き方改革」において、労働時間の実態を正確に把握することはとても重要です。労働時間は業務に従事している時間のみを指すのではありません。つまり医師であれば、自院で診察や診療をしている時間のみが労働時間になるのではないということです。
医療機関において、医師の労働時間の実態を正確に把握するにあたり、必ず理解しておかなければならない事項は以下の5つです。

①主たる勤務先(自院)での労働時間
②副業・兼業先での労働時間
③労働時間に該当する診療外業務の時間(研鑽、研究等)
④宿日直中(主たる勤務先及び副業・兼業先)の労働状況
⑤副業・兼業先の日直許可の有無

特に、副業・兼業先での労働時間は自己申告制になっているケースも多く、正しく把握する仕組みが必要です。また、研鑽においては医療機関でルールが定まっていない場合もあり、研鑽の扱いについてもルールを明確にする必要があります。

5つの項目のうち、本コラムでは、「③労働時間に該当する診療外業務の時間(研鑽、研究等)」における自己研鑽の時間をどのように取り扱うのかについて簡単に解説します。

(2)自己研鑽の取扱いの考え方
医療機関に勤務する医師が、診療などその本来業務の傍ら、医師本人の知識の習得・技術向上のために行う自己研鑽については、労働時間に該当しない場合と労働時間に該当する場合があります。
まず、労働時間に該当する自己研鑽は、所定労働時間において、医師が使用者に指示された勤務場所(院内等)において研鑽を行う場合を指し、当該研鑽に係る時間は労働時間として扱います。例えば、診療ガイドラインについての勉強や自らが術者である手術や処置の予習や振り返りは診療の準備又は診療に伴う後処理として不可欠なものなので労働時間に該当します。
また、よくご質問をいただくのは、所定労働時間の研鑽の取り扱いです。この点について、厚生労働省は次の考え方を示しています。
■ 研鑽が、上司の指示によって行われる場合には、所定労働時間外でも、診療等の本来業務と直接の関連性なく行われるものでも、一般的に労働時間に該当する。
■ 診療等の本来業務と直接の関連性なく、かつ、上司の指示なく行われる限り、在院して行う場合であっても、一般的に労働時間に該当しない。

労働時間に該当しない自己研鑽の具体例としては以下があげられます。
■ 研究を本来業務としない勤務医が、院内の臨床データ等を利用し、院内で研究活動を行っているが、その研究は、上司に命じられておらず自主的に行っている。
■ 勤務先の医療機関が主催する勉強会だが、自由参加である。
■ 学会等への参加・発表や論文投稿が勤務先の医療機関に割り当てられているが、勤務医個人への割当はない。

この基本的な解釈は「医師の研鑽に係る労働時間に関する考え方について」(2019年7月1日 厚生労働省労働基準局長通達)に詳しく記載されています。

3.医師の労働時間短縮のための方策

医師の労働時間を適切に把握し、A水準の上限規制を超える労働時間になっている場合は、労働時間短縮のための取り組みが必要となります。その取り組みを明文化したものが「医師の労働時間短縮計画(以下、医師の時短計画)」です。

医師の労働時間短縮に向けた取り組みとしては、様々な方策が考えられますが、医師の時短計画では以下の類型が定められており、各項目について少なくとも1つ以上の具体的方策を記述する必要があります。

① タスク・シフト/シェア
② 医師の業務の見直し
③ その他の勤務環境改善
④ 副業・兼業を行う医師の労働時間の管理
⑤ C-1水準を適用する臨床研修医及び専攻医の研修の効率化

次回は、この医師の時短計画の概要とどのようなプロセスで策定すれば良いかについて解説します!


連載コラム「医師の働き方改革」について考えよう!(全4回)~時間外労働時間の「特例水準」について詳しく知ろう~
第1回:「医師の働き方改革」の概要
第2回:時間外労働時間の「特例水準」について
第3回:医師の労働時間の考え方←本コラム
第4回:「医師の労働時間短縮計画」について