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株式会社健康保険医療情報総合研究所
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2022.08.26
2021年の岸田政権の発足を主な契機として、地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関における看護職の賃金引き上げの議論が中医協等で行われてきました。2022年8月上旬に引き上げ方法の方向性が概ね固まり、2022年10月以降、看護職員を対象に賃金を3%程度(月額平均12,000円相当)引き上げるための処遇改善を、診療報酬の枠組み(看護職員処遇改善評価料)を通して支援することになりました。
本コラムでは、看護職員処遇改善評価料の仕組みを「点数区分の決定方法」「施設基準」「処遇改善の対象職種」「処遇改善の実施を担保する方法」の4点に分けて詳しく解説します。
処遇改善を診療報酬の枠組みを通して行うことは、令和4(2022)年度診療報酬改定の議論の中で概ね固まっていましたが、入院と外来のどちらの診療報酬に上乗せするか等について多くの議論がなされました。結果としては「入院料への上乗せ」される形で「看護職員処遇改善評価料」が新設されました。
看護職員処遇改善評価料は、当該保険医療機関における看護職員等の数(保健師、助産師、看護師及び准看護師の常勤換算の数)及び延べ入院患者数(入院基本料、特定入院料又は短期滞在手術等基本料を算定している患者の延べ人数)を用いて、次の式により算出した数【A】に基づいて、該当する区分を届け出することになっています。
引用:厚生労働省資料より
なお、計算式の分子と分母の定義は次の通りです。
(分子)看護職員等の数:直近3か月の各月1日時点における看護職員数の平均の数値を用いること。
(分母)延べ入院患者数:直近3か月の1月あたりの延べ入院患者数の平均の数値を用いること。
そして、この【A】の値により決まる評価の区分は165通りあり、医療機関別の実態に沿った形で算定点数が決定されます。
引用:厚生労働省資料より
看護職員処遇改善評価料は、毎年3月、6月、9月、12月に前述の算定式により新たに算出を行い、区分に変更がある場合は地方厚生局長等に届け出る必要があります。ただ、前回届け出た時点と比較して、直近3か月の「看護職員等の数」、「延べ入院患者数」及び【A】のいずれの変化も1割以内である場合においては、区分の変更を行わないものとすること、とされています。
看護職員処遇改善評価料の施設基準は、次のいずれかに該当することとされています。
・救急医療管理加算に係る届出を行っている保険医療機関であって、
救急搬送件数が年間で200件以上であること
・救命救急センター、高度救命救急センター又は小児救命救急センターを設置
している保険医療機関であること。
1つ目の施設基準の救急搬送件数については、賃金の改善を実施する期間を含む年度の前々年度1年間における実績が対象となります。
看護職員処遇改善評価料は「看護職員」の処遇改善のための原資になるのですが、そもそも「看護職員」とは一体誰のことを指すのでしょうか?似た用語の「看護要員」と混同しやすいのですが、看護職員は、保健師、助産師、看護師及び准看護師のことを指し、看護要員は、看護職員に加えて看護補助者が含まれます。
それでは、看護職員以外の職種はどうでしょうか?
看護職員以外については、当該医療機関の実情に応じて、次の職種について賃金改善措置の対象者に加えても良いとされています:看護補助者、理学療法士、作業療法士、及びコメディカルである職員(視能訓練士、言語聴覚士、義肢装具士、歯科衛生士、歯科技工士、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、 管理栄養士、栄養士、 精神保健福祉士、社会福祉士、介護福祉士、保育士、救急救命士)。
上記職種に薬剤師が含まれていないことにお気づきの方もいらっしゃるかも知れません。中央社会保険医療協議会(中医協)でも人材確保の観点から薬剤師を含めるべきだという意見が出ていましたが、今回の変更において薬剤師は含まないということで決着しています。
また、注意していただきたい点は、前述のAの式の分子に出てきた「看護職員等の数」は、【保健師、助産師、看護師及び准看護師の常勤換算の数】という点です。看護職員処遇改善評価料の点数区分決定に関わる職種の中には、看護職員以外(看護補助者やリハビリスタッフ等)は含まれていませんのでご注意ください。
看護職員処遇改善評価料による収入の増分が、看護職員の処遇改善に使用されているのかを担保する方法として、「賃金改善計画書」及び「賃金改善実績報告書」を提出する方法が採用されました。
「賃金改善計画書」とは、看護職員処遇改善評価料の見込額、賃金改善の見込額、賃金改善実施期間、賃金改善を行う賃金項目及び方法等について記載した計画書のことです。毎年、4月に作成して7月に地方厚生局長等に提出する必要があります。
「賃金改善実績報告書」は、賃金改善計画書と同様の項目を実績ベースで記載する書式です。こちらも毎年7月に地方厚生局長等に報告することが施設基準に明記されています。
以上のような経緯と方法で、看護職員の処遇改善の対策が講じられ、実現することになりました。このコラムをお読みの方で、看護職員に該当する方も多いかと思います。終わりの見えないコロナ禍で疲弊された方もいらっしゃると思いますが、皆様の日々の取り組みが評価される形で対策がとられたとも言えるのではないでしょうか。
弊社では、今後もこのように医療従事者にとって有益な、診療報酬に関わる情報等を随時ご提供してまいります。