株式会社健康保険医療情報総合研究所

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重症度、医療・看護必要度はどう変わってきた?(第7回/全8回)

COLUMN

2022.02.07

今回のコラムでは、重症度、医療・看護必要度(以下、看護必要度)の改定について触れたいと思います。看護必要度は診療報酬改定にあわせて2年に1度見直されていますが、評価を実施される医療従事者の皆様の中には、「また変わるの?!」と思われている方もいらっしゃるかも知れません。

看護必要度を見直す目的は、「急性期の入院患者」を把握する評価手法として適切なものであるためでした。詳しくはコラム2に記載してありますので、そちらをご覧ください。

本コラムでは、令和2年度および令和4年度の診療報酬改定における看護必要度の論点を振り返ります。その論点を受けて看護必要度がどのように変わったのかについてみてみましょう。

1.令和2年度診療報酬改定では、どのように変わったの?

令和2年度改定では、入院医療等における実態調査等の結果をもとに看護必要度の記録に係る負担や、評価対象の項目の見直しについて議論されました。例えば、B項目「患者の状況等」については根拠の記録が不要となり、“介助なし”の日も、患者の状態が反映できる項目に改定されました。

看護必要度の「評価項目」の変更点についてまとめると以下のようになります。実態調査の結果を【実態】、論点および議論の内容を【論点】、改定結果を【結果】として記載しています。

A項目<モニタリング及び処置等>

【実態】A項目の「専門的な治療・処置」に該当する薬剤のうち、抗悪性腫瘍剤と免疫抑制剤の注射剤は、入院で使用される割合が高いのに対し、内服薬は入院で使用される割合が低い。

【論点】入院で実施される医療を適切に評価する観点から、評価対象となっている内服薬を除外すべきかどうか。
(支払側)内服薬については評価対象から削除すべき。
(診療側)外来使用が多いが、導入期には入院で副作用等の評価をする必要性がある点に注意すべき。

【結果】A項目の抗悪性腫瘍剤と免疫抑制剤の内服は項目から削除となり、注射剤のみが評価対象となった。

B項目<患者の状況等>

【実態】B14(診療・療養上の指示が通じる)又はB15(危険行動)に該当し、「A 1 点以上かつB 3点以上」の評価基準に該当する患者について 該当する患者のA項目は「心電図モニター管理」が多く、「A 1 点以上かつB 3 点以上」の評価基準に該当しない日は、A項目いずれにも該当しない患者が多かった。B14(診療・療養上の指示が通じる)又はB15(危険行動)に該当し、「A 1 点以上かつB 3 点以上」の判定基準に該当する患者は、高齢で自立度が低く、医学的な理由による入院患者の割合が低かった。

【論点】「A 1点以上かつB 3点以上」の評価基準は、急性期病院の入院患者としての評価基準として妥当か?
(支払側)患者実態像が急性期患者実態とはかけ離れているため、この評価基準は廃止が妥当。ただし、B14(診療・療養上の指示が通じる)又はB15(危険行動)の評価は継続すべき。
(診療側)高度急性期から療養まで認知症やせん妄のある患者が増えている。医療上も看護上も手厚い提供体制が不可欠であり、評価基準をなくすべきではない。

【結果】「A 1点以上かつB 3 点以上」の評価基準は削除となった。



【実態】B項目の“評価の根拠”の記載は、既存の看護記録に加えて別途記載が求められ、記録に係る業務負担が多いことが分かった。

【論点】B項目の評価方法を「患者の状態」と「介助の実施」に分けて評価することと し、あわせて根拠となる記録を不要にしてはどうか。
(支払側)看護必要度がより精緻になるため、賛成である。
(診療側)看護職員の負担軽減につながり、賛成である。

【結果】B項目の評価方法が「患者の状態」と「介助の実施」に分かれた。 根拠の記録は不要となった。

C項目<手術等の医学的状況>

【実態】C項目のうち、入院で実施される割合が9割以上であるが評価対象となっていない検査や手術が多くあることが分かった。

【論点】入院で実施される医療を適切に評価する観点から、評価対象の整理を行うこ とについてどう考えるか。
(支払側)入院で実施する割合が高いから追加するのではなく、侵襲性の高さを考慮すべき。
(診療側)手術や検査等入院で実施されるものは、広く評価されるよう評価項目に組み込むべき。

【結果】別に定める検査、別に定める手術が追加となった。

中央社会保険医療協議会 総会(第433回)総-1 資料より一部要約
中央社会保険医療協議会 総会(第441回)総-5 資料より一部要約

2.令和4年度診療報酬改定における論点は何?

それでは、令和4年度の改定についても論点を振り返ってみましょう

今回の改定では、看護必要度のA項目「心電図モニターの管理」の削除、「点滴ライン同時3本以上の管理」「輸血や血液製剤の管理」の定義の見直し、B項目「衣類の着脱」の削除、C項目「骨の手術」の該当日数の短縮が論点になりました。それを受け、各評価項目について削除または見直した場合の入院基本料・病床数別の重症患者割合への影響がシミュレーションされ、その結果をもとに議論がなされました。

診療側と支払側の意見はまとまらず、最終的に公益委員の裁定により改定内容が決定されました。今回の変更点を下表にまとめました。なお、B項目「衣類の着脱」の削除、C項目「骨の手術」の該当日数の短縮(11日間から10日間へ)の見直しは見送られました。

A項目<モニタリング及び処置等>

【実態】「心電図モニターの管理」に該当する患者のうち、自宅退院した患者について、退院日もしくは退院前日まで該当する患者が、一定数いることが分かった。また、「心電図モニターの管理」を評価項目から削除した場合のシミュレーションにより、看護必要度Ⅰで18.9%、看必要度Ⅱで11.9%が、評価基準を満たさなくなる結果となった。

【論点】「心電図モニターの管理」は、急性期における評価指標として適切か?
(支払側)退院日まで心電図モニターの装着がある実態がある。実態に即して評価項目から除外すべき。
(診療側)処置や手術等のない、内科系急性期患者において、心電図モニターは重要かつ欠かせない指標である。今回見直すべきではない。

【結果】「心電図モニターの管理」を削除



【実態】「点滴同時3本以上の管理」に該当する患者のうち、使用薬剤数が2種類以下の 患者が存在することが分かった。

【論点】評価指標として適切か?
(支払側)使用薬剤が2種類以下の実態がある。評価項目から削除すべき。
(診療側)改定の度に評価項目が変わるのは現場の負担である。また、コロナ禍の状況を踏まえると、さらに実態の正確な把握をすべき。今回見直すべきではない。

【結果】「点滴ライン同時3本以上の管理」を「注射薬剤3種類以上の管理」に変更



【実態】「A 2点以上かつB 3点以上」または「A 3点以上」の評価基準を満たす患者について調べたところ、「輸血や血液製剤の管理」有りの場合に、診察が頻回な患者の割合が高く、看護師による直接の看護提供の頻度も高いことが分かった。

【論点】評価を見直してはどうか。 *ほぼ議論されていないが、「実態」と「シミュレーション結果」から改定に至る。

【結果】「輸血や血液製剤の管理」の点数を1点から2点に変更

中央社会保険医療協議会 総会(第495回)総-2 資料より一部要約


なお令和4年度診療報酬改定では、コロナ禍の状況を踏まえ看護必要度の改定後の影響を緩和する措置も取られました。シミュレーションの結果を鑑み、急性期一般入院料1(200床未満の病院を除く)以外の重症患者割合が引き下げられたということが、答申に記載されています。このように診療報酬に関わる改定は、医療に関わるすべての立場の人々の意見をもとにデータに基づいた議論が行われ、決定されます。

3.おわりに

本コラムでは実態や論点をもとに評価項目がどう変わったかについて、実態や論点とあわせて触れてみましたが、いかがでしたでしょうか。看護必要度は評価の実施に関わるため、改定後は「何が変わったか」のみに注視されることが多いかも知れません。しかし、背景にある論点を押さえることで、改定内容への理解も深まるのではないかと思います。

これから院内研修等を担当される方もいらっしゃるかと思いますが、ぜひ看護必要度に対する理解を深める機会として、本コラムをご活用ください!



その他、重症度、医療・看護必要度の知りたい内容については、下記コラム(全8回)をぜひご覧ください。

コラム1:重症度、医療・看護必要度とは?
コラム2:重症度、医療・看護必要度は何のため?
コラム3:重症度、医療・看護必要度は何を評価する?
コラム4:重症度、医療・看護必要度ⅠとⅡの違いは?
コラム5:重症度、医療・看護必要度はいつ評価する?
コラム6:重症度、医療・看護必要度は何点必要?何割必要?
コラム7:重症度、医療・看護必要度はどう変わってきた? ※当ページ
コラム8:病院全体で取り組む重症度、医療・看護必要度の精度向上