株式会社健康保険医療情報総合研究所

Planning, Review and Research Institute for Social insurance and Medical program (abbr. PRRISM)

NEWS 
& COLUMNS

コラム

ゼロから始めるDPCデータ活用⑪

COLUMN

2021.03.17

第11回:DPCデータと地域連携データを活用した集患対策

本連載では第1回からDPCデータを使用した分析・集計の手法や事例を解説してきました。今回はDPCデータと他の院内データを組み合わせた分析事例として、地域連携データ分析とそれらを活用した集患対策についてご紹介します。具体的には、①DPCデータと地域連携データの結合イメージ、②地域連携データ分析により得られる示唆、③地域連携・集患対策の要諦、の3つです。

1.DPCデータと地域連携データの結合イメージ

今まで本連載でご紹介してきたように、DPCデータを活用することで経営改善に資する様々な分析が可能です。ただし、DPCデータは院内に存在するすべての情報を網羅的にデータ化しているわけではありません。例えば、検査値、診療を実施した場所情報、患者の待ち時間、患者紹介を受けた医療機関名称や紹介患者数はDPCデータには含まれていません。

それらDPCデータには存在しない情報の中で、われわれが特に重要と感じているのが「地域連携に関する情報」です。入院に至るルートは①救急、②紹介、③外来に分けられ、紹介患者増加に向けた取り組みは経営上の重要課題です。取り組みの効果を高めるために紹介患者や逆紹介患者の動向分析は必須と考えます。

地域連携システムは様々な企業が販売しており、データ出力できる情報はシステムによって異なります。そのため、今回はわれわれが分析に使用している最低限の項目を挙げます。それは、①患者ID(DPCデータと同様の規則で付けられたもの)、②紹介日、③紹介元(紹介先)医療機関名称の3項目です。以後、地域連携データと呼ぶ場合は、この3項目を指します。

最近の地域連携システムは紹介患者数や逆紹介患者数の傾向分析機能を実装しているものが多いようですが、より多くの示唆を得るため、さらに収入情報と組み合わせた分析を推奨します。地域連携システムに収入情報が登録されていなくても、紹介/逆紹介データを出力してDPCデータと結合させれば、収入・診療科・疾患・紹介元(紹介先)医療機関等を総合的に分析できます。

2.地域連携データ分析により得られる示唆

では、地域連携データとDPCデータを組み合わせて具体的にどのような集計・分析を行っているのかを紹介します。弊社のコンサルティングポリシーは、最終的に病院職員のアクションに繋がる分析結果を提供することにありますので、例えば、地域連携データ分析の場合は「地域連携室が近隣の医療機関訪問をする際、優先的に訪問すべき医療機関はどこか」をご提案します。

地域連携データ分析の際に、われわれが着目するのは以下のランキングや図表です。

○ 紹介患者数の多い医療機関TOP10
○ 紹介から入院へ至った患者数が多い医療機関TOP10
○ 紹介からの入院率が高い医療機関TOP10
○ 紹介入院(外来)患者の平均単価の高い医療機関TOP10
○ 紹介患者数の時系列変化

注:バブルの大きさは紹介から入院へ至った患者数

直感的に理解しやすいように、①~③の指標をバブルチャートにしたものが上図です。

上図を4つのエリアに分けて説明します。まず右上のエリアに位置している医療機関は紹介患者数が多く入院率も高いため、自院にとって入院患者数への影響度が高い医療機関と判断できます。これらの医療機関に対しては、丁寧かつ迅速な返書や逆紹介を通して連携を強固に維持する必要があるでしょう。

次に右下のエリアです。これらは、入院率は高いものの紹介患者数そのものの数は多くない医療機関です。医療機関の規模にもよりますが、今以上に紹介患者数を増やせる余地があるかどうかの検討をしましょう。病床の空き状況を随時お知らせする等の対策により、紹介をいただける頻度を増やす対応が効果的です。

次に左上のエリアです。ここに位置する医療機関は、紹介患者数の総数は多いですが入院率が低いため入院患者数よりも外来患者数への影響度が高いと判断できます。紹介いただいた患者の外来フォローを続けながら適切なタイミングで逆紹介を行い、関係性を継続したい連携先と言えます。

最後に左下のエリアは、紹介患者数、入院率ともに低い医療機関が該当します。このエリアに位置する医療機関については、時系列で紹介患者数の推移を確認することをおすすめします。

時間軸を加えることで、「半年前に開業したばかりで現在は紹介患者が少ないだけ」といった理由や、「以前は紹介患者数が多かったが、昨年の夏あたりから紹介件数が減っている」といった気づきが得られることでしょう。得られた理由や気づきをもとに新たな改善策を考え、徐々に自院の方針に沿った別のエリアに移行させれば良いのです。

他の指標の具体例も紹介します。⑤の紹介患者数の時系列変化は、グラフにすると直感的にわかりやすく、紹介患者数の急落や連続した落ち込みを早期に発見できます。また、訪問実績や勉強会の開催実績をコメント入力することで、実行した施策に対する効果が可視化され、担当者の達成感やモチベーション向上に繋がります(上図)。

3.地域連携・集患対策の要諦

データ分析の目的は、示唆を得て次のアクションに移すことにあり、データ分析を行うだけでは紹介患者は増えません。すべての経営改善策に共通することですが、最終的に人が動いてこそ分析の意味があります。

また、経営改善には決して魔法の杖があるわけではなく、起こすべきアクションは聞けば当たり前と思うことが大半です。その当たり前のことの積み上げこそが重要です。実際、地域連携において継続的に紹介患者数を維持・増加させている医療機関には以下のような特徴があります。

○ 患者を抱え込まない(逆紹介を積極的に行う)
○ 返書内容を丁寧に書く
○ 適切なタイミングで返書を出す
○ 訪問する際は先方に有益な情報(紹介して貰った患者の近況など)を持っていく
○ 訪問する際は自院の用件だけでなく、先方の要望や困っていることをヒアリングする
○ ヒアリングした内容は関係者にフィードバックし真摯に改善に取り組む

上記の特徴から判断するに、地域連携においては、連携先との日頃のコミュニケーションを通じて信頼関係を築くことが大前提となるのではないでしょうか。

(産労総合研究所「病院羅針盤」掲載)