株式会社健康保険医療情報総合研究所

Planning, Review and Research Institute for Social insurance and Medical program (abbr. PRRISM)

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ゼロから始めるDPCデータ活用⑫

COLUMN

2021.04.07

最終回:コンサルタントが使っているデータ分析の視点

本連載では第1回からDPCデータやその他の院内データを使用した分析・集計の手法や事例を解説してきました。今回はデータ分析に共通する「型」をお伝えしつつ、今までご紹介してきた事例をおさらいします。

1.「分析」とは何か?

みなさんは、「分析」という言葉を聞いてどのようなイメージを持たれるでしょうか。

われわれは、データ分析における視点は2つあると考えています。1つ目が「分ける」という視点、2つ目は「比べる」という視点です。今後みなさんがデータ分析を行う際は、「分ける」という視点でデータを眺め、その数字がどのような要素で成り立っているのかを考えるとともに、比較対象を加えて「比べる」ことで数字に解釈を持たせるように意識しましょう。

2.細かい要素に「分ける」

病院のデータ分析という文脈において、「分ける」とはどういうことでしょうか。例として、医業収益を要素に分けてみます。

医業収益はまず、入院診療収益外来診療収益に分解できます(さらに細かく分けると室料差額や自費診療分もありますが、今回は説明を簡略化するために入外別のみに分けます)。

次に、入院診療収益と外来診療収益は、それぞれ診療単価 × 延べ患者数という式に分解できます。延べ患者数については、実患者数 × 平均在院日数(外来であれば来院頻度)に分けられます。

実患者数をさらに細かくすると、入院の場合は、救急、紹介、外来に分解でき、外来の場合は、時間内と時間外に分解できます(初診と再診といった分け方でもよいでしょう)。

このように、何か問題解決を迫られたときは、まずは要素に切り分けて問題箇所を明らかにしてから、原因究明や改善策実行という次のステップに進みましょう。

3.他と「比べる」

先ほど、“要素に切り分けて問題箇所を明らかにして”と述べましたが、問題箇所はどうすれば発見できるでしょうか。そのときに使うのが「比べる」という2つ目の視点です。

本稿では、問題とはあるべき姿と現実のギャップである、と定義します。あるべき姿には、目標値や過去の水準、類似病院の平均値などが挙げられますが、比較対象がなければ良し悪しや増減を判断できません。

「今月の入院診療単価は60,000円でした」と言われても、診療単価の相場観を知らない人はその数字の良し悪しを解釈できず、建設的な議論に発展しないでしょう。

今月の入院診療単価は60,000円という事実に、「前年同月の入院診療単価は50,000円だった」という情報が加われば、単価が上がったと解釈できます。

さらに、「同規模同機能の他病院の平均単価は68,000円である」という比較対象が加われば、当院の診療単価は伸びているが更に伸びる余地がありそうだと判断できます。このように、比較によって数字に意味を持たせてこそデータ分析と言えます。

4.「分けて」「比べる」ときの可視化パターン

数値を要素に分解し、比較する際は表形式で見比べてもよいですが、グラフを使って可視化するとより直感的に把握できるようになり、多忙な病院経営者や医療従事者の印象に残りやすくなります。可視化にはいくつかのパターンがありますが、今回は優先的に習得していただきたい2つをご紹介します。1つ目が差異、2つ目が変化です。

図1 「差異」と「変化」のグラフ例

差異とは、ある要素同士を比べて数値の多寡を判断するグラフパターンです。病院、診療科、病棟、疾患などを横並びにして、収益、患者数、診療単価、平均在院日数などを比較し、○○と比べて多い(少ない)や長い(短い)、高い(低い)といった判断をします(図1左)。

変化とは、数値を時系列に並べて、増えた、減った、変化なしの傾向を見るグラフパターンです。何か施策を打った後に数値が望ましい方向に変化したか、という効果測定にも利用できます(図1右)。

図2 「差異の変化」と「変化の差異」のグラフ例

さらに、差異と変化を組み合わせるグラフパターンもあります。図2左は、差異の変化を表したものです。数値同士を比較した結果(差異)を時系列に沿って確認する目的で使用します。

例えば、収益を今年と前年で比較し、前年差異を月ごとに累積する使い方が挙げられます。その他、予実管理(目標と実績の差異管理)にも有効なグラフです。

図2右は、変化の差異を表したものです。時系列の変化度合いを要素別に比べて特異的なトレンドを検知する目的で使用します。

5.DPCデータを「数値」と「切り口」で考える

ここまでのデータ分析の2つの視点と可視化の方法によって、データ分析の「型」を習得できました。それでは、実際のデータを取り扱ってみましょう。データを扱う際に意識していただきたいのが、「数値」と「切り口」という考え方です。ほとんどの集計表やグラフは、数値と切り口の2つの要素でできています。

「数値」とは、「何の指標を見たいのか?」という視点です。例えば、患者数、平均在院日数、診療単価、収入などが挙げられます。

「切り口」とは、「どの集計単位で見たいのか?」という視点です。例えば、診療科、病棟、疾患、診療行為、時系列(年、四半期、月、日)などが挙げられます。

表1 DPCデータの数値と切り口の例

DPCデータ分析業務に携わっている方や、これからDPCデータ分析を始めようと思っている方には、DPCデータに含まれる項目のうち、「数値」に使える項目は何か、「切り口」に使える項目は何か、という整理をすることをおすすめします。これまでの連載内容をベースに、DPCデータで集計可能な「数値(指標)」と「切り口(集計単位)」をまとめた表を示します(表1)。

まずは、DPCデータで算出できる数値(指標)から見ていきましょう。

実患者数や延べ患者数、平均在院日数はEFファイルまたは様式1ファイルで集計できます。EFファイルは退院済み患者および未退院患者の両方が含まれておりますが、様式1ファイルには退院済み患者しか含まれていませんので、目的に応じて使い分けましょう。

収入や診療単価など金額に関する指標は、EFファイルやDファイルを使います。なお、DPCデータには保険診療の請求金額のみが記載され、自費分は含まれていないため注意が必要です。

急性期一般入院基本料等の施設基準になっている重症度、医療・看護必要度の基準を満たす割合はHファイルとEFファイルで集計します。

次に、切り口(集計単位)を確認しましょう。

患者属性単位で集計をする場合は様式1ファイルを使うことをおすすめします。様式1ファイルの特徴は、多様な切り口を持っていることです。例えば、①性別や郵便番号、年齢といった患者属性情報、②入院経路や予定・救急区分などの入院情報、③退院先や退院時転帰などの退院情報、④傷病名情報、⑤手術情報、等が含まれており、これらの単位で患者数や平均在院日数の集計が行えます。

診療科や病棟単位で集計をする際はEFファイルやDファイルを使います。例えば、診療科別の月次収入といった収入系の月次モニタリング資料はEFファイルまたはDファイルのみで作成できます。

さらに、これら2つのファイルは集計単位として、診療行為情報や日別情報(入院経過日、外来受診日)を持っています。診療行為単位(例えば特定の術式や加算)の算定件数や算定点数の集計が行えるだけでなく、診療プロセスの可視化に基づくクリニカルパス作成にも活用できます。

「予定・救急別の退院患者数」や「診療科別の収入」のように1つのファイルのみで完結する指標と切り口の組み合わせもありますが、複数のファイルを組み合わせることでさらに多様な視点での分析が可能です。

例えば、重症度、医療・看護必要度の傾向分析をする際、基準を満たす割合の集計単位は、HファイルとEFファイルのみでは病棟単位または診療科単位が限界です。

しかし、Dファイルを組み合わせることでDPCコード別という新たな切り口が加わります。DPCコードは、病棟や診療科と比べると細かい切り口であるため、より診療現場に近い単位で、看護必要度の評価のバラつきや在院日数長期化に伴う該当患者割合の低減などの傾向を把握できるようになります。

6.おわりに

われわれは、本連載のほかにも、経営アドバイザーやセミナー、システム販売などを通じて、病院事務職員の方のデータ分析スキル向上および組織力の底上げのための活動をしています。今後またみなさまのお力になれる機会があれば嬉しい限りです。

本連載を通じてDPCデータに興味をお持ちいただき、データ分析に基づいた問題発見や問題解決、ひいては経営基盤強化の一助としてお役立ていただけますと幸いです。ご愛読いただきまして誠にありがとうございました。

(産労総合研究所「病院羅針盤」掲載)