株式会社健康保険医療情報総合研究所

Planning, Review and Research Institute for Social insurance and Medical program (abbr. PRRISM)

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コラム

DPC Bakery 開発者座談会 後編
今後の展望とは?

COLUMN

2020.08.31

あえてメニューは作らない、分析メニューのない「分析ツール」

――デモの段階ですでに病院側で気付きや発見があるというのはすごいですね。オススメの機能に関する質問でしたが、今までの分析システムとは一線を画す、その意味が少しわかってきたような気がします。それにしても、パンそのものではなく、パン生地を作る、というコンセプト、そして開発に至るそもそものきっかけは何だったのでしょうか――

初めは弊社製品の様式1クリエイターユーザの皆様に、さらに役立つ新しいサービスを提供できないか、と考えていました。しかしユーザに限らず、幅広くPRRISMならではのサービスで何か提供できないだろうか、と構想は膨らんでいきます。そんな中で、PRRISMの強みでもあるDPCデータの分析関連でもっと力になれないか、と考え始めました。

――すでに多くの分析ソフトがあると思いますが、そこに懸念はなかったのでしょうか?――

もちろんありました。そこで、実際に分析ソフトを導入している病院で、日々活用しているアクティブユーザはどれくらいいるのか? と思いを巡らせてみました。そして、分析課題は病院によって異なり様々だが、既存の分析ソフトにある固定的な分析メニューは、そうした病院の課題に対して応えられているのか? という問いを立てたんです。そのため、分析ソフトの在り方から考えるようになりました。そんな時、自部署(コンサルティンググループ)の仕事で、DPCデータを分析しやすい仕様に加工した変換データ(中間データ)を使って、データ分析業務を行っていたことを思い出しました。

――コンサルティンググループで行っているレポーティングサービスですね? ――

そうです。このサービスの中でDPCデータの分析も行っているんですけど、扱いやすい中間データを作ることで、定型ではなく、様々なアプローチで自由に分析できるようになるんです。そして実はこの中間データ、一から作ろうとすると、作成するのがなかなか難しいんです。診療報酬改定のタイミングで集計定義の見直しもしないといけないですし。
そのため、これさえあれば病院の担当者はもっと自由に、そして意に沿った分析が自らできるのでは、と考えたんです。コンサルティングのサービスですと、スポット的なものになりがちですから。だから、あえて定型メニューを作らない、中間データを簡単に生成できる製品を企画することに決めたんです。それに加えもっと担当者自身で「深堀り」をしてもらいたいと考えました。定型メニューがあると現状の機能で可能な分析に留まってしまうけれど、データはいろいろな角度から切り込むことで、様々なアウトプットを得ることができるんです。これは弊社の医療経営管理支援システムにも根付くコンセプトの一つでもあります。

そうはいっても、不慣れな人がいきなり原価計算システムを活用するというのは難しい、順を追って、自然に分析スキルが身につくほうがいいのでは、という考えもありました。私たちも、病院担当者がどんな分析を求めているのか、幅広く知りたいと思っています。さらに役立つサービスとして成長させていきたいですね。そして、もっと病院でDPCデータを活用してもらいたい、「DPC Bakery」を通じて、各担当者の着実なスキルアップにつながってほしい、この想いが根幹にあります。

――実際に分析業務をしているからこその視点ですね。自由な分析が誰でも容易にできること、企画立案からコンセプト確定まで順調に開発を進めていったように見えますが、実際はどうだったのでしょうか――

企画コンセプトから、実際の製品イメージまで、開発メンバー間でブレずに共有できていたのでそこは良かったと思います。ただ、当社として新しいコンセプトだったので、社内プレゼン時は苦労しましたね(笑)。あと技術的な部分で言うと、クラウド型にするかどうかについてはいろいろな面で検討しました。

DPC Bakeryのシステム設計コンセプトでもあるのですが、「よりシンプルに、より快適に」を常に意識していました。そんな中で、新たなシステムを院内に設置するのではなく、オンライン上にDPCデータをドラッグ&ドロップするだけであれば、既存のパソコンで手軽に使ってもらえるかな、と思うようになりました。ただ、今までPRRISMの既存製品で、クラウド型の製品やサービスがなかったんです。今回は初めての取り組みとなったので、セキュリティの問題やデータ量に対する処理の問題、アップロードされたデータの取り扱い等、本当にセキュアな環境で快適な動作環境を提供できるのか、といったところは何度も、専門のメンバーを集めて議論を重ねました。無事課題をクリアしてリリースすることができましたが、今後もより一層、安全、快適にご使用いただけるよう、改良を進めていきます。

最初は現地環境へのインストール型も考えましたが、結果的にオンラインの提供が実現できて良かったです。やはり、院内にシステムを設置するとなると、場所やメンテナンス、端末の更新に合わせた本体側の更新作業等、都度の作業や費用がどうしても増えてしまいます。何より、現地設置型と比べ、お客様の費用負荷も最大限おさえることができたと思っています。

費用負荷が少なく、誰でもチャレンジできるような仕組みを考えると、最終的にはクラウド型の提供形態しかなかったですね。

何より手軽に使えるのが一番です。繰り返しになりますが今後も改良を重ね、とにかく、ユーザファーストなシステムであり続けたいと思っています。

――長く使用すればするほど、より実感しそうなポイントですね。システム構築にあたってシンプルさを追求したとのことですが、行える分析は多岐にわたりますよね? 幅広い分析が可能であるがゆえに、仕様の検証や調整も大変だったのではないでしょうか――

そうですね。アウトプットに対する精度が求められるのはもちろんですが、随時告示される疑義解釈もタイムリーに把握し調整を行う必要があるので、その点は今後も続いていきますね。

特に今年度は、重症度、医療・看護必要度の変更が多かったので、仕様調整とシステム設計を担っていたメンバーは特に大変だったと思います。

このシステムに完成という概念はない。すべては試行錯誤、共に成長する環境を育んでいきたい

――たくさんの想いを込めた「DPC Bakery」、どのような方にオススメしたいですか――

もちろん幅広く、たくさんの方々にオススメできます。先程触れてきたように、どんな病院でも扱いやすく、導入に対するハードルも低い製品に仕上がっていると思っています。
ただ実はこの製品、私の中でロールモデルがいたんです。実際にお世話になっている現場担当の方をイメージして作り上げていった側面があるんですね。その方は中規模の出来高病院で、DPCデータを活用することで病院の経営改善に役立てたいと考えていらっしゃる方でした。
このような意識を持っていらっしゃる方に「より扱いやすく、この方であれば、どのようなデータの持たせ方をするのだろうか、どのようなデータや分析項目が出せればいいのか」と、実際の現場目線をシミュレーションして作り上げられた製品でもあるんです。今のところ看護必要度、疾病統計がメインですが、例えば収益を軸に、経営的な視点で分析したいと考えを持っている人にもどんどん使ってもらいたいですね。使用される中での分析項目の要望はいつでも、ご意見いただきたいと思っています。

本当、ご要望はどんどんいただきたいですね。表計算ソフトの操作をはじめ、アウトプットのイメージもご自身で模索できる分、ボタン一つで画面に答えが出てくるよりは、ご意見やご要望が出てきやすいと思います。「ここを楽にしてほしい」、「こんなデータも入れられたらいいな」。といったご意見、お待ちしています! そしてたくさんのお声を聞かせていただきながら、より現場のニーズに合ったものを作っていきたいです。

ウェブユーザ会とか開催したいですね。

ほんと、やりたいですね! 各ユーザの活用事例なんかも今後、皆さんで共有していく場があるといいですね。

病院同士で様々な学びが得られるのでは、と期待しています。DPC Bakeryの輪を広げていきたいですね。

――幅広い分析が可能だからこそ、院内スタッフ皆さんにオススメできるんですね。すでに使用されている方々、これから検討をされる方々に向けて、「DPC Bakery」の今後の展望を聞かせてください――

展望ですが、まず「完成・ゴール」という概念がこのシステムには当てはまらないと思っているんです。ちょっとイメージしづらいかもしれないんですが、DPC Bakeryはユーザも私たちも参加している共同プロジェクト、その総称、仕組みそのものだと思っているんです。DPC Bakery、これに付随するサポート、レシピ集、今後のセミナー企画等含めすべてはこのプロジェクトの「部分」なんです。完成がないからこそ試行錯誤しながら、この共同プロジェクトを通じて、共に成長する環境を育んでいきたい。

僕も同じ。もっと言うと病院とPRRISMだけではなく、この業界と共に成長をさせていきたいです。

各個人だけではなく、「病院組織」の成長という観点でも、お役に立てると思います。というのも、DPCデータの分析は多職種にわたって活用可能なので医師、看護師、事務長、診療情報管理室、医事課等、病院運営に貢献できないかと試行錯誤されているすべての方々に有益なものです。今までどのように関与していいかわからなかった方でも、DPC Bakeryを、DPCデータという共通言語を用いた部門間のコミュニケーションツールとして活用いただけるようになると嬉しいですね。

PRRISMの新しい挑戦―DPCデータで病院経営に貢献したいと考える方へ―

――「パンではなくパン生地を作る」…どんなパンを作るか、その作り手にゆだねられているからこそ、完成はなく、これからも共に成長できる製品なんですね。企画から開発に至るまで様々なお話をしてもらいました。最後にこちらをご覧になっている皆様に、メッセージをお願いします――

繰り返しになりますが、現状の製品仕様に留まらず、様々な用途に応えられるようバージョンアップをしていきたいと思います。ぜひ使用していただいて、お声を聞かせていただきたいと思います。

先程の「病院組織の成長」とも重なりますが、DPC Bakeryを用いて、多職種間での院内コミュニケーションにつながればと強く思っています。データを通して、各人が対話できるようになればいいなと。また、分析担当者の分析・集計・プレゼンスキルを磨いていただく中で、同時に事務作業全般の効率化につなげてもらいたいと願っています。DPC Bakeryは、業務負荷軽減という作業効率化から、病院運営に係る経営分析に至るまで、分析担当者が無理なくステップアップできるツールだと思っています。ぜひお試しいただければ!

「DPC Bakery」はPRRISMの新しい挑戦です。この挑戦を通して、医療機関の皆様に進化したPRRISMを提示できればと思っています。自信はあります。また、私たちとしても想定していなかった「DPC Bakery」の使い方を知りたいと思っていますので、ぜひ、皆さんの柔軟なアイデアをどんどんぶつけてもらいたいですね!

 

――その意味では、皆さんからの「PRRISMへの挑戦」でもありますね。無限の可能性を持っている「DPC Bakery」、今後の展開に期待しています! 本日はありがとうございました――

 

※記事の内容は、取材当時の内容に基づきます