株式会社健康保険医療情報総合研究所

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病院職員も知っておきたい調剤薬局経営のはなし(第3回/全3回)

COLUMN

2020.10.28

第3回 調剤薬局経営の基礎

前2回(第1回第2回)は調剤薬局の業務について説明いたしました。

今回は視点を変えて、調剤薬局の経営の基礎を説明いたします。

調剤薬局を適正に運営するために、調剤薬局の収支管理や、利益向上のための取り組みを紹介いたします。病院経営に活かせる取り組みもあるかと思いますので、ぜひ参考にしてみてください。

調剤薬局の収入(調剤売り上げ)

調剤薬局の収入には、調剤収入とOTC収入の2つがありますが、その中でも調剤収入は、一般的な調剤薬局の収入の中でも大部分を占めます。

一般的な調剤薬局における大まかな調剤収入は、以下の式で表すことができます。

調剤収入=処方箋枚数×(調剤基本料+薬剤服用歴管理指導料)+薬価合計

薬価は薬剤によって一定であるため、調剤売り上げを伸ばすためには、処方箋枚数を増やす、調剤基本料に対する加算を増やす、薬剤服用歴管理指導料に対する加算を増やす、この3つが考えられます。

1つ目の処方箋枚数を増やすためには、現状の患者層や応需医療機関を分析する必要があります。例えば患者対応に問題がある場合は、顧客満足度を高めて患者を確保することが重要となります。また、近隣医療機関以外の処方箋を獲得する取り組みが必要となる場合は、老人ホームや在宅患者を獲得するために、医療機関や老人保健施設等に働きかける手段もあります。

2つ目の調剤基本料は、基本的に立地に左右されるものですが、立地に関わりなく取得できる加算として後発医薬品調剤体制加算と地域支援体制加算があります。これら2つの加算は加点が大きいうえ、要件を満たせばすべての患者で算定できるため、取得できれば調剤基本料のアップにつながります。

また、これらの加算要件については、後発医薬品調剤体制加算は病院や患者に対してアプローチしていく必要がある、地域支援体制加算は一部の指導料・加算が算定要件に含まれるなど、どちらも薬局薬剤師に求められる事項が詰まっています。

3つ目の薬剤服用歴管理指導料には、患者対応に対する加算が設定されています。そのため、必要な患者に適切に対応することで算定を取りこぼさないことが重要となります。また、服用薬剤調整支援料や服薬情報提供料など、病院側への情報提供が必要になる項目もあり、薬剤師としての総合力を試される加算です。

調剤薬局の収入(OTC売り上げ)

OTCとは「Over The Counter:オーバー・ザ・カウンター」の略で、カウンター越しにお薬を販売することで、通常の小売店と同様に販売した値段から消費税を除いた額が売り上げとなります。

OTCはドラッグストアにおける品ぞろえが豊富ですが、最近では調剤薬局でも販売に力を入れるようになってきました。薬剤師が効能・効果等を厳選し、地域の患者層にあった薬剤を取り揃えています。また、病院の先生がお勧めするOTCやサプリメントをそろえている門前薬局もあります。

売り上げは大きくはないですが、処方箋によらない販売が確保できることと、セルフメディケーションへの関心の高まりから取り組みを強化する調剤薬局が多くなってきました。服用中薬剤とOTCにおける飲み合わせのチェックや、適切な治療方法の選択(OTC等の選択、医療機関の受診勧奨など)が調剤薬局でOTCを購入することの利点です。健康サポート薬局の登場や、薬局の管理栄養士による栄養相談が増えることで、今後より需要が高まると予想されます。

調剤薬局の支出

調剤薬局の支出には主に、材料費、人件費、委託費、設備関係費、経費があります。

その中で、薬局において最も大きなウエートを占めるのが材料費です。医薬品購入費が特に多くなるため、薬局内の在庫管理が重要となります。グループ薬局では不動在庫を定期的に店舗間移動させ、改定や期限切れによるロスを減らします。特に薬価改定が行われる年度末は不要な在庫を減らして少しでもロスを減らす方向に動きます。

2番目に支出の比率が大きい人件費は、薬剤師と医療事務含むそれ以外に分かれます。薬剤師1人あたり処方箋40枚を超えないようにとの制限があるため、処方箋枚数に応じて適正な人数配置を行います。

2019年度より厚生労働省から調剤補助員が事実上容認されました。機械化と合わせ、薬剤師の負担軽減と利益増にどこまで影響するか、今後の動向に注目が集まっています。

調剤薬局経営で利益を生むためには

利益を生むためには、収入向上と費用削減が基本となります。

収入向上策を立てる場合、まずは自店舗の処方箋枚数や算定状況、スタッフのレベル、周辺環境などを見直します。その中で改善の余地があり、かつ着手しやすい部分から対策を練ります。

また、支出を抑えるためには医薬品の在庫が過剰になっていないか常にチェックし、適正な在庫を確保することが重要となります。

人員のコスト管理では、適正な薬剤師数の中で、薬局の機械化や調剤補助員をどのように活かしていくかが、工数面・コスト面で重要となります。

何もしないままでは処方箋枚数が増えたり、加算が増えたり、在庫額が減ったりすることはありません。薬局は利益の向上のため、外部へ処方箋獲得を働きかけるとともに、コストの意識を持ち、より合理的な経営を目指す必要があります。

薬局の経営を病院業務に生かすためには

薬局業務の中には、病院業務に活かせるものもあります。

薬局では在庫管理の考え方が徹底されており、在庫コスト削減の考え方は病院でも活かせると考えられます。ジェネリック変更、薬剤を不動在庫にしないための考え方、年度末の在庫対策等が不十分な場合は、在庫コスト削減ために力を入れてやってみるといいでしょう。

薬局の地域活動は患者獲得の参考になるかもしれません。特に在宅業務へ力を入れ、地域包括支援センターや介護施設などと連携を取る薬局も増えてきました。病院側もこのような施設と連携したり、在宅に力を入れたりすることが求められる可能性があり、超高齢社会を見据えた対応が求められます。

また、薬局との連携は診療報酬の加算点数として算定できるものもあり、重要となります。レジメンの公開や患者の副作用情報等を共有し、地域の薬局を対象とした研修会を開催することで連携充実加算が算定できます。また、入院前の処方から変更・中止等があった場合、退院時の見直し理由や見直し後の患者の状態等を文書で薬局に提供した場合、退院時薬剤情報連携加算が算定できます。

病院経営の改善にあたっては、他院を参考にした経営改善だけでなく、薬局という経営モデルの近い事例も参考にし、自院へ落とし込んでみてはいかがでしょうか。

以上、3回にわたり、調剤薬局における薬剤師の仕事や経営の仕組みについて解説してきました。実際に調剤薬局にお勤めの薬局薬剤師の方に対して、何かしらの業務改善や経営改善に繋がるヒントをお伝えできたら嬉しく思います。また、病院で働く薬剤師の方やその他の職種の方にも、調剤薬局の役割等が伝わり、今後の連携に役立てていただけたなら幸いです。